最初の手術が終わると、今まで家と病院だけだった世界が少しずつ外へ広がっていく。

お花見に出かけて桜の中で写真を撮ったり、父の膝に座ってカラフルなローラーすべり台に挑戦したり、室内テーマパークのボールプールで遊ぶこともできるようになった。

家での遊びも大きく幅が広がって、おもちゃはタオルや袋から、手押し車やブランコへと変わっていく。そんな私の写真を収めたアルバムが、何冊も重なっていった。しかし、和やかな暮らしを脅すように、不安もずっと影を潜ませていた。秋が終わりに近づき、冬の気配を感じるようになってきた日の夜、私は熱を出した。

「風邪ひいちゃったのかなー」

母は少し心配になった。この間出かけた時、咳をしていた人と会った気がするし、うつったのかもしれない。

けれど、それだけでは終わらなかった。あっという間に熱が上がり、顔色も悪くなると、母と父は慌てて車を走らせて、救急外来へと向かった。

「まだ、診てもらえないって」

救急外来には、私より先に患者さんがいた。夜の静かな待合室で、どうしよう、もう間に合わないかもしれないと、最悪の想像が母の脳裏をかすめる。

ようやく診てもらえた時には、すでに危険な状態だった。急いで点滴を繋がれてICU(集中治療室)へと運ばれると、まもなく熱は下がって、私はそのまま1週間入院することになった。

まだ1年と半分の命を、落としかけた出来事だった。