鬱状態の原因は何か
こんな日が2週間くらい続いた。俺は食欲や気力がなくなり、気持ちが沈み込んでボーっとして来た。睡眠不足にもなった。榎本さんもやっと俺の異変に気がついて、動物病院で診てもらうことにした。
獣医さんの「最近、生活環境が変わったようなことはないですか」との問いに、「今、家の工事をしており、日中は猫を二階の部屋に閉じ込めている」と榎本さんは答えた。
すると獣医さんは「それですよ。家の工事の音に怯えているんです。猫にとっては発生源の分からない大きな音は恐怖なんです。怖くて仕方ないんです。そのストレスで鬱状態になったんだと思いますよ」と即座に診断した。
さすが、獣医さん。猫の気持ちがよく分かっている。獣医さんの所へ来て、よかったー。
「薬はとくに必要ありません。工事の音に慣れるよう飼い主さんで工夫してください」ということで診察は終わった。
人間だって得体の知れない大きな音を聞くと怖い。ましてや聴力が鋭い猫では、どれほど怖いかってことだ。俺は人間の言葉が分かるから、獣医さんの診たてをよく理解できたんだ。何の音か分かったので俺はもうそれで十分。これからは怯えることはないよ。急に元気になってご飯も食べるようになったので、榎本さんは少し安心したようだ。
だが「音に慣れさせるって、どうすればいいのか」と考えても方策がなく、「とにかく、明日はにゃん太郎に我慢してもらうしかないな」と奥さんと話していたよ。
俺は「榎本さん。もう大丈夫だから心配しないで」とニャンニャン鳴いて伝えたが、猫語が分からない榎本さんには残念なことに伝わらない。
翌日、二階の部屋に入れられても平気だった。元気で榎本さんを迎えることができたので、とりあえず一件落着となった。その後も、二階の部屋に入れられても、俺はどんどん元気になっていき、以前の俺に戻っていった。
それを感じた榎本さんは、にゃん太郎が元気になったんだから、それでいいという気持ちになっていったんだと思う。その2か月後工事は無事に終わった。猫専用の出入口も完成した。めでたし、めでたし。