壱
そこに、真理が帰ってくる。
「ただいま。あっ、そうそう、今日、お兄ちゃん、先生に怒られていたよ」と告げ口。
それを聞いて裕美は、佑介に、「何それ。何があったの」
佑介、妹に向かって、「余計なことを言うな」と言いつつ、裕美に向かって、
「怒られたんじゃないよ。これからのこともあるから、一度、ご両親と話がしたいから、面談に来てほしいって言われたんだよ」
「そんな大事なこと、先に言いなさい」
「僕にとっちゃあ、サッカーシューズのほうが大事なんだよ」
次の日、母が佑介の担任の先生、高山と面談している。
高山先生は裕美に対して、
「佑介君ですが、勉強もまあできる方なので、私立中学も狙えると思いますよ。ただ、もしいい私立中学ということであれば、塾を考える必要があると思いますし、自宅でも勉強の時間を増やしていただく必要があると思います。それに、塾だと、お金も必要にはなってきます」と話した。
裕美は、
「うちは、共働きですし、お金を心配しているわけではないんですが、私立中学に入ると、お金持ちの子供が多いから、その友達の影響を受けて、いいかげんな性格や、ちゃらちゃらした生活になる恐れがあるでしょ。それだけは、絶対に避けたいんです」
「私立学校は確かに、裕福な家庭の方が多いので、公立とは多少環境は変わるかもしれませんが、ちゃらちゃらというわけではないと思いますし、性格の点も、結局は自身の問題だと思いますよ」
「私どもは、お金持ちの家庭の子供が、努力のできない、自堕落な性格に育っている例を多く見ているので、うちの子だけは、そんな風に育てたくはないのです」
「そんなことは決してないと思いますよ。そういえば、お父様も、お母様も有名私立大学出身だったんじゃないですか」
裕美も、そう言われると強く言えなくなり、とりあえず、「今晩、夫と相談してみます」と答えた。