淳美の答は決まっていた。

「でも別れてくれるかしら」

「ご主人だって浮気しているんだから、離婚すれば慰謝料だってもらえるさ。ご主人、僕たちのことを気づいていないんでしょう?」

「あの人はそんな敏感な人じゃないから」

「こちらからわざわざ教えてあげる必要はない。ほとぼりが冷めたら結婚しよう」

「30万円の用意しておいてくれよ」

希代美に淳美との結果を一通り報告すると、春樹は言った。

「わかっている。あなたに騙されているのも気づかないなんて、淳美さんもかわいそうね」

「今さら何言ってんだい。大体君が言い出しっぺだろう。同罪というよりも、君は主犯なんだから。今さら良心の呵責でもないだろう」

「そうね。30万円はすぐに用意するから。実はもう一つ頼みたいことがあるの」

淳美は光彦に別れを切り出した。あかねとの浮気について光彦は言い訳もしなかった。

「あなたは優しすぎるのよ。優しさが人を傷つけることを覚えておいたほうがいいわ」

「みんなは僕のことを優しいって言うけど、本当は臆病なだけなんだ」

「あなたは自分が傷つきたくなかっただけなのよ」

「今さら何を言われても仕方ないことだけど、僕は今でも君を一番愛している。だけど自分がまいた種だから仕方ない」

光彦は離婚届に判を押した。非は光彦の側にあるというので、慰謝料は500万円に決まった。

「あなたの望みは叶いました」

携帯電話に映し出された希代美からのメッセージを見て、あかねは意地の悪い笑顔を浮かべた。光彦を取り戻すのは、あかねにとってプライドの問題でもあった。

虫も殺さないような顔をして親友の男を奪った淳美には、その罪を償う必要があるのだ。

(私に逆らうとどういう目に合うか、思い知ればいいわ)

淳美が新しく借りたマンションは一人で暮らすには広すぎた。

それでも春樹に言われたとおり、3か月間は春樹と会わなかった。春樹は携帯電話のやり取りすらしないほうがいいと言った。

そこまで用心する必要があるのかとも思ったが、慎重な行動を心がけた。春樹への思いは会えない時間の分だけ大きくなっていった。

(やっと3か月が経った。もう春樹に連絡しても大丈夫だろう)

淳美は春樹に久しぶりに電話した。