【前回の記事を読む】35歳/女性「25歳の時に失恋して物流センターに転職」ある日の殺伐…

「真弓」

ようやく休憩に入ることができた真弓と愛結香は、疲れと空腹で休憩室のパイプ椅子にぐったりと腰掛け、放心状態になっていた。

「あいつー、仕事増やしてくれちゃって……なんて名前だっけな?」

愛結香がため息交じりに言った。真弓は思わずプッと吹き出してしまった。

「愛結香ちゃんニコニコして『大丈夫ですー』とか言ってたじゃない!」

「そうなんですよねー。男子相手だとつい愛想よくしちゃうんですよね。私」

愛結香が頭をコリコリとかきながら笑った。真弓は愛結香のこういうところが憎めなくて好きだった。

愛結香は二十七才で子持ちのパート社員だ。二才の子供を保育園に預けて働くママだ。真弓が彼にふられて傷心していた年齢に愛結香は出産していたのだ。

真弓はかわいらしい童顔の愛結香を見つめた。なぜだかすごく頭が下がる思いがする。私はいったいなにをしていたんだろう。そして今も、なにをしているんだろう。なんともやるせないような、ちょっと胸がつまるような気持ちになった時、愛結香がサンドイッチを両手に一つずつ持って言った。

「佐々木さん、かっこよかったですよ!」

「え? なに?」

真弓はちょっと面食らった。

「あの迷惑ドライバーに声かけてあげてたじゃないですか。私、できないわーって思いました」

ああ、そのことかと真弓は思った。

「動揺して事故でもおこされたらなお迷惑でしょう? それでつい言っちゃったのよね」

「いや、だからって咄嗟にでませんよ。さすが先輩って思いましたよ」

愛結香は右手のサンドイッチにかじりつきながら真弓をまっすぐ見つめた。真弓は後輩のこの言葉にちょっと救われる思いがした。

「……ねえ愛結香ちゃん。どうしてサンドイッチ両手に持つの?」

愛結香がくりくりした目を真弓に向けた。

「これですか? 子供の世話しながら自分も早く食べなくちゃって思うとこうなっちゃうんですよ! 行儀悪いのはわかってるんですけど」

愛結香が口をモグモグさせながら笑う。

「ママ、頑張れ!」

「はい! 頑張ります!」

二人の笑い声が休憩室にあふれた。