看護専門学校の入学試験は過去三回実施されているが、ある日、学校に一本の電話があった。

「教務主任の先生はおられますか」

電話に出た事務員が国田に電話を手渡した。

「こちらは看護専門学校受験雑誌を発行しているP社ですが、過去問題集を発行する予定ですので、貴校の過去問題を提供していただきたいのですが、如いか何がなさいますか」

「そのような話は初めてでございますが、他校はどのようにされているのですか」

「ほとんどの学校からは年度毎で一科目千円で提供していただいています」

「そうですか。当校は国語(現代文)、数学、英語、理科(生物学)の四科目ですがそれでよろしいのでしょうか。当校は開校してから三年目ですが、これからも受験生の増加を期待したいし、知名度も上げなければなりませんので、三年分をよろしくお願いします」

「そうですね。三年分で十二科目分になりますね。できればコピーでなく、各試験科目の原本を送って下さればと思っています。数日以内に依頼書を郵送しますのでよろしくお願いいたします」

数日後P社より依頼書が届いた。

三年分の過去問題を宅配便の着払いで届けた後に、代金は振込にて支払われる旨が記載されていた。国田はP社に従うことにした。国田は入試の過去問題がこんなに貴重なものであることに気付き、今後は入学願書を求めた受験生に秘かに販売する計画を立てた。

しかし、国田は四科目の過去問題の代金が一年分で四千円では高いと思って、受験生が購入するであろうか疑問を感じた。近隣の他校を調べてみると一年分が千円〜三千円まで幅があることから、さらに判断に迷った。過去問題の傾向を調べるには最低でも二、三年分は必要である。

受験雑誌社のP社が本校の問題を全部掲載するか否かは不明であるが、過去問題を購入する受験生は必ずいる。国田が赴任する前の二年間はどのようにしていたのか現在の学校事務員に訊いてみたところ、一年分の四科目の過去問題が千円であったとのことである。

今日の電話の主は受験雑誌の業者だから一年分の四科目で四千円であったが、受験生には千円にしようと国田の独断で決定した。