広い荒野を馬に跨がった二人の人物が、吹き荒れる砂嵐の中を進んでいた。辺りは宙に舞い散る砂塵によって全ての景色が掻き消され、ここがどのような場所であるかなど、知ることはできない。
馬に跨がり先を進む二人も、頭巾を目深にかぶり、両目以外の全てを覆っている。頭巾の奥に潜むその表情、性別などを伺い知ることはできない。しかし、その体格と装備を見れば、二人が男女であることはわかる。
一人はがっしりとした体格であり、腰には刀。大きな荷物を背負い、いかにも武人といった出で立ちだ。もう一人は、華奢な体格であり、荷物は馬の背に乗せている。その体格から、女であることは一目でわかる。だが、馬に跨がる様子はいかにも上級者のようで、馬の背に揺られていても体幹がふらつくことはなく、姿勢を正したまま崩れることはない。見た目とは裏腹にその女がひ弱でないことは見てわかることだった。
二人の足取りはある村の前で止まった。おそらく十戸ほどあったであろう村の家々は、崩落しているか、放火されたのか、黒ずんだものばかりだ。そして、そこに広がる光景も、信じ難いものだった。村の通りに人が倒れている。それを目にした女は倒れている者のもとへ駆け寄る。だが、その者の顔を見た女の表情は引きつる。その者には、既に息はなく、身体は冷たくなっていた。
「一体何があったの」
女の声は震えており、その口調も悲しげだった。
女の言葉に男は口を噤む。男にはわかっていた。よく見ると、辺りにはここの村人であろう者たちの死体が幾つも転がっている。皆、刀傷や矢傷などを負っており、ことごとく無残に殺されていることがわかった。皆、一見したところ盗賊にでも襲われたように思える。
だが、この辺りは隣国の国境に近い。戦の最中であるこの国と隣国の近辺に位置する村の運命など、予想できないわけがない。だが、村に住む者たちには、この地が全てであり、ここを離れれば他に行くところなどない。わかっていてもこの地を離れなかったのだろう。故に、このような惨い結果になってしまったのだろう。