【前回の記事を読む】【小説】反抗すれば死。勇者は魔力で残虐な敵に立ち向かう!
第一章出会い、そして始まり
「はいダメーやり直し!」
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
甲高い声が容赦なくダメ出しし、続いて落胆の声が虚しく響く。そこは、熱気と金属を打つ音で満たされた工房だった。広い屋内には何人もの人影が忙しなく動いており、炉に通されて白熱化した金属や、組みかけのマギの周りで駆け回っている。ふと、それらの内の何人かが赤い光を発し始める。そして炉から取り出した金属へその光を当て、金属の構成を作り替えていった。
彼らは魔道士と呼ばれる人々だ。ギアメスでは魔法は日々発展し続けており、その中には金属の構成を操る「錬金」の魔法もある。それを専門に修めた彼らはこの工房のようにマギの製造にも深く関わっていた。しかし、その仕事に満足していない者もいる。それが先の甲高い声の主、この工房の長たる少女であった。
リボンを付けた長い銀の髪。耳にはピアスを付け、大きめの瞳や綺麗な稜線を描く顔貌を持つ。背もそれなりに高く、キャミソールと短いズボンを身に着けるその体は引き締まっており、中々様になる容姿をしていた。
だが魔道師のローブ――工房の環境に合わせ、生地を薄くして作られている――を纏って腕を組んでいる姿には、少女らしからぬ貫禄がある。十七の歳で魔道士を束ねる地位に就き、工房の長も務める彼女の名は、リリア・アージュといった。
「物質の構成比率がなってないの! これじゃ必要強度満たしてないじゃない!」
見せられた合金のサンプルに、リリアは容赦ない評価を下す。彼女の前に立っているボサボサ髪の青年、アーサー・ディオスは顔を歪めて俯いた。彼は二十代半ばと見られ、魔道士のローブを着たその体は細く、今浮かべている表情と併せて情けない印象を受ける。しかし彼はこれでもリリアの副官的存在であり、事実上の副工房長と言える存在である。そんな彼は、リリアの叱責に情けない声で抗議をしていた。
「し、しかしこれでも必死にやったんだぞ!?ミスリルやハイドロック、諸々の成分を注文通り混ぜて作ったし! そりゃ、その、ちょっとは配分比率ミスったかもしれないけど……リリア、少しは妥協してくれ!」
「だったら……ちょっとそこ!」
「うぇ!?」
「プレス機!」
「は、はぃぃぃぃ!!」