暇そうにしていたのを目ざとく見つけられた工房員に一言、リリアが言う。それだけで彼は全力疾走し、お目当ての器具を持ってきてサンプルをセットした。器具が負荷をかける。その強さがある一定まで達した時、サンプルは耐え切れず折れ曲がってしまう。その際の負荷の数値は、リリアの言う通り想定値を満たしていない――いや、それどころかかなり下回っていた。アーサーはその結果に身を縮こめる。

「うぅ……!」

「ほら見なさい。私の言う通りだったでしょ。こんなのをマギに使ったら、命を懸けて戦う操手達に失礼だわ」

つかつかとリリアは壁際まで歩き、そこに設置された映写機を動かして映像を出す。長い首と鎧のように頑強な表皮、サメを思い起こさせるギザギザの歯並び。城砦の如き巨体を誇る、四足の怪物が映し出された。魔獣(グランビースト)。ギアメスを闊歩する、世界で最も強い力を持つ存在だ。そして映写機に映っている個体は「ベルギム」と呼称されており、最も多く見かけ、最も弱い魔獣とされていた。この威容で、である。マギが作られた理由でもあるその映像を、リリアがバンと叩いた。

「魔獣はこんな数値、平気で出してくるわ。分かる? 私たちに妥協なんてしてる余裕なんかないのよ! このことをもっと自覚しなさい!」

「……す、すまん……余りにうまくいかないもんだからつい、な……」

肩をがくりと落とすアーサー。周りの同僚達が、まあまあと二人の間に割って入った。

「少し落ち着こう? な? ずっと徹夜が続いてたし、アーサーも疲れが溜まってきてるんだ。そう怒らないでやってくれ」

「い、いや。今回は俺が全面的に悪いんだ。リリアの言う通り、操手達の命を俺達は預かってる。妥協なんてしていいわけがないし、それに」

アーサーは顔を上げ、リリアを見つめた。

「リリアはもっと頑張ってるんだ。……皆も知ってる通り、な」

彼の言葉に、工房員達はむうと唸る。現在この工房、「白金(プラチナム)」では彼らが属する国、「エムスエラ王国」より発注を受けて新たなマギの開発を行っていた。骨格の試作品は既に完成し、後は装甲と武装の組み上げを残すのみとなっていた。だが、そこで予め鍛造していた装甲では強度が足りないことが露見したのだ。

動揺する工房員達にリリアは「慌てないの!」と叱咤し、続けて、「むしろ問題が分かって良かったと思うべきよ。私達がしなければならないのは、ただ一つ――より性能のいいマギを、作り出すことなんだから!」と自信満々に言ってのけ、彼らを鼓舞してみせたのだ。