13章 弦楽五重奏曲第4番 K.406/516b

この曲は1782年にウィーンで完成した、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット各2本のためのセレナードK.388「ナハット・ムジーク」の編曲版である。そのため弦楽五重奏曲第2番、第3番の後にウィーンで1787年に完成された。

モーツァルト31歳の時であった。

4楽章からなり、演奏時間は23分に及ぶ。私が特に好きなのが第1楽章と第2楽章である。

第1楽章アレグロ。重苦しい雰囲気の音楽で始まる。チェロの音が音楽の中心にある。その後明るい音楽に変わる。第1ヴァイオリンが中心となって主旋律を奏でる。その後、力強いきびきびとした音楽に変わる。

次いで冒頭部の重苦しい音楽に戻る。その後は穏やかな癒しの音楽に。低音を支えるチェロの響きが心地よい。そして最後に冒頭部の音楽に戻る。冒頭部の音楽の単なる繰り返しではなく、第1ヴァイオリンが悲しみに満ちた主旋律を奏でて終了する。

第2楽章アンダンテ。静かな癒しの音楽で始まる。冒頭部から気品に満ちた美しい旋律が奏でられる。第1ヴァイオリンが弾く主旋律はこの上なく美しい。後半部に入ると悲しみの音楽に変化する。

しかし悲しみはそう長く続かない。そのあと冒頭部の音楽に戻る。心安らかに、静かに一日を過ごせたことに対して神に感謝の祈りを捧げているようである。

ヴィオラが音楽に幅をもたせ、弦楽四重奏曲よりさらに深遠な世界になっている。私の愛聴盤はエーデル弦楽四重奏団に第2ヴィオラのヤーノシュ・フェへールヴァーリが加わった演奏である(CD:ナクソス、8.553103、1994年2月ブダペストで録音、輸入盤)。

エーデル弦楽四重奏団の四人に加わったフェへールヴァーリも柔らかな美しい音でモーツァルトの弦楽五重奏曲の世界の再現に参加してくれている。聴くたびに感動する素晴らしい演奏である。

なお、第1ヴァイオリンの代わりにハインツ・ホリガーがオーボエで演奏している録音がある。ホリガーは十分に第1ヴァイオリンの代わりをしている。感情を込めたオーボエの演奏が素晴らしい(ケネス・シリトー指揮、アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの団員による演奏。フィリップス、PHCP-9307、1986年6月ロンドンで録音)。