――オレオレ詐欺は大木を筆頭に、職安や友達の紹介でメンバーが集まった。性格によって、真面目で大人しいタイプが受け子、饒舌で頭の回転のいいかけ子、そしてどちらにも属さない送迎と買取り屋に別れた。大概捕まるのは受け子だが、大人しい受け子は口止めされたことをしっかり守る。だからOSはなくならない。

受け子は最初は罪悪感があるが、そのうち慣れてくるとだんだん快感になってくる。電話を受けた被害者のうち、警察に通報するのは恐らく半分以下だろう。なぜ通報しない人間がいるのか? 理由はいくつかある。一つ目は自分が騙されたことを人に知られたくない。馬鹿だと思われたくないプライドの問題。二つ目は騙されたことをわかっていない。

本当に息子や孫だと思いこんで自分が救世主にでもなった……と思いたいポジティブ思想。三つ目のOSだとわかっていて、わざと渡す。上から脅されているのではないか? このお金がないとその子の人生に多大なる影響が出て来るのではないか? と思い、億万長者が数百万を義援金感覚で渡すケース。他にもいくつもあるだろう。

しかし、OSで集まった金額、何百億円とも言われているが、その札束はとても使いきれる金額ではない。OSの中に小中学生もいるが、何百万も、使えるわけがない。そしてその札束はいずれは自宅の押入れの奥辺りから見つかるだろう。

殺されたのは五人だ。オーナーの押坂、箱長でもありパーフェクトの社長でもある大木、受け子の母親の松岡直子。かけ子の渡辺敏夫。他一名殺されている。指紋の手袋は手形の指先の部分を拡大コピー。その指紋の部分を濃い色で塗りつぶし、また縮小する。その形を元にゴム印感覚で指紋を作り出し手袋の指先に付ける。被害者の家に指紋の判を誰かがつけに行くというわけだ。

しかし、殺人の手口が全く一緒だとバレる可能性があるからと、押坂は刺殺、大木は溺殺、松岡直子は絞殺、渡辺敏夫は毒殺、もう一人は突き落とし殺人とそれぞれ違う。合わせて五人だが、三人は遺書があり、オーナーと大木の遺書はない。

指紋があったり電話に声が録音されていたり、それぞれ少しずつ変化をつけているものの、共通していることは、複数犯によるもの。一人で殺害するのと複数で殺害するのとでは、罪悪感の度合いが随分違う。五人なら二十パーセント、流れ作業の一工程のような感覚だ。

若宮の供述で、他の共犯者も逮捕された。しかし、「運んだだけ」「電話をかけただけ」「海に落としただけ」「手袋を作っただけ」「縄を結んだだけ」「コーヒーに粉を入れただけ」他にも単純作業の話が軽い調子で出てきていた。

十代の少年犯罪は、少年法に守られているから名前も顔も出なくて済むだろう。二十歳以上も同じ立場の人間が複数いることで罪悪感は薄い。しかし、この事件によって五人殺された。それだけではない。OSによって被害者が自殺したケースもあると言う。OSと殺人事件で逮捕された人間、全部合わせると十八名。

その十八名はほとんど殺人犯として出所後も世間からの風当たりは厳しいと思われる。まともな職になどつけるのだろうか? 前科者を快く受け入れてくれる温かい心の持ち主がいたとしても、他が許さないだろう。