【前回の記事を読む】「親が亡くなったら三年の間は喪に服すべき」と孔子が説くワケ
村の中で尊敬されるには
樊遅は、弟子たちの中でも若く、とても素直な性格でした。若いこともあって、先輩たちが議論しているような、難しいことは、なかなか理解できませんでしたが、将来は、自分の村の中でも人徳者として尊敬される人物になりたいと思っていました。
そうなるために、まずは農業について学ぼうと考えました。農業の方法を学び、村を農業で発展させれば、みなから尊敬されると考えたからです。そこで、樊遅は、孔子に、まずは田んぼの作り方について教えを乞いました。孔子は言いました。
「樊遅よ、田んぼのことなら、むかしから田んぼで仕事をしている熟練の農家の人に聞いた方がいい。私より年上の経験がたくさんある農家の人なら、私よりもはるかに多くのことを知っているはずだ」
と。樊遅は聞きました。
「それでは、畑の作り方を教えてくれませんか」
孔子は答えました。
「畑も同じだよ。私よりもくわしい人がたくさんいるよ」
日頃からなんでも知っていて、知っていることはすべて教えてくれる師匠を尊敬していた樊遅は、途方に暮れてしまいました。孔子は言いました。
「樊遅、君はわかっていないのだよ。田んぼを作っている人にも、畑を作っている人にも、経験がたくさんある熟練者はたくさんいる。君は尊敬されたいのだろう。単に知識や技術を学べば、尊敬されるというものではないのだよ。尊敬されたいのであれば、まず第一に人徳者を目指して徳を磨くことだよ。
礼儀礼節がしっかりした徳の高い人は、自然に尊敬されるようになる。正義感を持って人として正しいことを行えば、みながその行いに賛同し、共感する。嘘をつかず、誠実さを持って人々に接すれば、みなも同じように信頼を持って返し、その関係を大切にするようになる。そのような人は尊敬され、その人のまわりにみなが集まってくるものだよ。
田植えの方法とか、畑の耕し方かたとかではないのだよ。それを知ったところで、尊敬されるわけではないのだよ。君はまだ若い、まずは人を知り、人を愛することを学びなさい。そうすれば仁の心が身につくはずです」
樊遅は田んぼや畑の作り方を聞いた自分が、とても恥ずかしくなりました。このことがあって以来、心を改めて、徳を磨くべく、孔子の教えを実践するように心がけたのでした。