【前回の記事を読む】藁にもすがる思いでの育児相談…新米ママに放たれた衝撃の一言
仕事と家庭
新婚時代 長女誕生
出産して六カ月が経った頃、這うようにして娘を布団に寝かせ、博史が帰ってきたのにも気づかない晩があった。博史が私の顔色を見て仰天して、体温計を取り出してきた。四十度近い熱があった。
「すぐに病院に行こう」
「いらない。眠い。とにかく今は寝かせて」
「わかった。風邪だといけないから、今夜は僕が子どもと一緒に寝る」
「大丈夫よ」
「バカッ。君の身体だけじゃない。赤ちゃんに風邪をうつしたらどうするんだ」
あ、そうかと初めて気づいて、その晩は別の部屋で眠った。ぐっすり眠った。目覚めたのは、翌日の昼過ぎだった。驚いて二人の様子を見に行くと、博史と子どもは爆睡中。
「朝のミルク、あげてくれた?」
「ん? ミル? なんで」
寝ぼけている。パンパンと布団を叩くとやっと目を覚まし、
「ミルク、朝六時と九時と十二時。ちょっとずつ遅れたけど、あげたよ」
「よかった。ありがとう」
ちゃんと責任を果たしてくれていた。子どもは満ち足りて穏やかな寝息をたてている。起き出した博史が
「病院に行くか?」
「いらない。ひと晩、ぐっすり寝たら、ラクになった。もう熱もないと思う」
「そうか。じゃ、今日は僕が子どもの世話するから、君は寝てろよ」
「大学は?」
「何言ってんだよ、今日は日曜だよ」
私は曜日の感覚もなくなっていたのだ。その日一日、彼が家事育児のすべてをしてくれて、私はずうっと寝続けた。夜、子どもを寝かしつけてから、久しぶりにしっかり話し合った。
「やってみると、大変だということが、よくわかったよ。君が疲れてることに気がつかなくて、悪かった。だけど、言ってくれなきゃ、わからないじゃないか。溜め込みすぎる前に、ちゃんと言ってくれ」
「大丈夫だと思ったんだけど」
「ついでに言うけど、君の今の状態、風邪だと思うよ。バカは風邪もひかないというけど、バカは風邪をひいていても気がつかない、ということなんじゃない?」
「えっ!?」
独身時代、「風邪もひかない福田さん」と元気印をウリにしていた私のプライドが木っ端みじんになった瞬間だった。