【前回の記事を読む】世の男性すべてを虜にできる美しい彼女は、決して恋に落ちない
ハレンチの敵
何とか十九時半に仕事を終えた風太は友人の家を訪れていた。その友人は風太と同じサークルに所属していた男で、つまり南雲さんと同じサークルに所属していた男であり、サークルの皆から「ハツ」と呼ばれていた。
その風貌は至って普通であり、髪の毛がツンツンとハリネズミのように跳ねている以外、特筆する点はない。あくまで風貌に関しての話だ。彼は今、夕飯の真っ最中である。おかずは唐揚げであった。風太はコンビニで買ってきた缶チューハイを片手にハツにという男に語った。
「やはり、南雲さんはあのままでは駄目だ」
「またその話か?」
と言ってハツは陽気に笑うのである。すると彼の周りでパチパチと小さな光が発生する。その小さなパチパチが向かい合う風太の腕に当たって、チクチクと爪楊枝で刺すような痛みを与えた。
「ハツ、笑うな。君の発する電気は痛いのだ」
「それは無理な話だなあ」
ハツは陽気な人間であり、人とのコミュニケーションも抜群に良いのだが、いかんせん陽気過ぎた。ハツの陽気さは科学の法則を覆し、陽気な彼が笑うと体内に陽子が溜まる。結果、自然と体外にある電子を引き寄せてしまうのである。その引き寄せられた電子によりハツの体の周りで電気が発生する。
「相変わらず厄介な体質だな」
「そう言うなよ、ハッハッハ」
バチバチバチッと光が散る。思わず風太は身を引いた。今の電気は結構痛そうであった。ハツの発する電気は笑う大きさに比例しているのである。そしてこのハツという男、何かにつけてよく笑うのだ。大学時代、南雲さんも彼には手を焼いていた。実際に電気で手を焼きそうになったこともある。
「乙女の手に火傷を負わせたらどうする!」と部員一同で怒ったこともあったが、それでもハツは「ごめん、ごめん」と言いながら笑うのでまたバチバチと電気を発する。風太達にはもう手の打ちようがなかった。
一つ忠告をしておく。ハツとテレビを見る時は部屋を明るくし画面とハツから離れ、それに加えて避雷針を用意して見るようにしてもらいたい。避雷針を置いたとしてもお笑い番組は避けた方がいい。テレビを見ている間に失神し、病院送りにされてしまう可能性がある。ハツが大笑いした時の電撃にはそれほどの威力があるのだ。