1998年11月21-23日(土-月)     ナポリ紀行                                      

-ポンペイ・エスコラーノ埋没都市と、♪空に白き月の光、波を吹くそよ風よ♪-

塩野七生の「ローマ人の物語」シリーズ(1998年当時)最新刊『悪名高き皇帝たち』の主人公の一人ローマ帝国第2代皇帝ティベリウス(在位紀元14年~紀元37年)は治世後半の10年間ナポリ湾に浮かぶカプリ島の別荘に引き篭もり帝国統治したそうで、ナポリ周辺の話がよく出てきます。

今回の旅行は土曜日にポンペイ、日曜日にカプリ島、ソレント、月曜日にナポリ市内というのが大まかなスケジュールですが、塩野七生に影響されたのかどちらかというとローマ時代の遺跡巡りが多く中世以降のナポリ観光には十分な時間を掛けられませんでした。ただ、各国・各都市ともそれぞれの栄光の時代があるわけで先週のリスボンが大航海時代とするとナポリはローマ時代かと思います。

 

ポンペイの考古学的価値は今更申しあげるまでもありませんが、面白く思ったのは競技場、劇場、広場等の公共建築物だけでなく住宅、公衆浴場や通りに並ぶ商店が見られ一般市民の生活の息吹が感じられることです。ヨーロッパ各地のローマ遺跡を回りましたが城壁や公共建築物が中心で市民の普通の生活の遺跡はなかなか残りません。

ヴェスヴィオ山の噴火で埋没した都市はポンペイの他にエスコラーノがありポンペイからの帰りに電車を途中下車して立ち寄りました。ポンペイが火山灰・火山れきで埋められたのに対し、エスコラーノは泥流に埋められたため保存状態がよく炭化した屋根材の一部が今も残っています。観光客は少ないですがポンペイ観光のついでに足を延ばす価値はあります。

両都市とも発掘済なのは一部で、まだ未発掘の場所が残されています。特にエスコラーノは市街地の真ん中を大きく切り取って発掘したもので、周囲には住宅・事務所の建物が並んでいるため古代エスコラーノの全貌が明らかになるまでにはまだまだ時間と費用が掛かりそうです。

カプリ島へはナポリから高速船で約1時間、ガイド・ブックのコースタイム40分の道を20分強で登り9時半にはヴィラ・ジョヴィス(ティベリウス帝の別荘)に到着、ヨーロッパ・アルプスに登る体力はともかくヨーロッパ旅行ならまだ当分大丈夫そうです。ヴィラ・ジョヴィスは336メートルの垂直の断崖の上に立ち真っ正面にソレント半島、左にヴェスヴィオ山さらにはナポリまで一望のもとに眺められ塩野七生が描く通りの絶景です。

別荘としては壮大なものですが、土曜日午後にナポリの王宮を見学したあとでは当時の全世界を支配したローマ皇帝の住まいとしては質素なもので、日本の首相官邸といったところです。カプリ島は周囲を絶壁に囲まれた地中海随一のリゾート地で、特に南斜面には海を望む瀟洒な別荘や高級ブランド店が立ち並んでいます。

ナポリ自体は雑然とした町でリゾート観光地として「ナポリを見て死ね」と言われるほど魅力のあるところとは思いませんが、カプリ島やソレントの街並み、景観は世界中の金持ちが別荘を建てるだけのことはあります。帰りはソレントまで高速船で渡り、ナポリ湾を左に眺めながらナポリまで戻り夕方を市内観光に費やしました。