「そのためには、一年で書記として生徒会に入っていた方が有利だ。ここ数年、書記を務めた者が翌年、生徒会長になっている」

彼はいつもの、どこから仕入れているか分からない、でも正確な情報を提示する。いたって真剣なのは伝わる。俺にリーダーと名のつくものの経験が、ないわけじゃない。でも、生徒会長はちょっと役目が大きすぎないか?

「じゃあとっておきの事実を教える。生徒会長はモテる」

かちりと何かが動く音がした。回り出す予感が、する。それは心か、俺の中学校生活か。

彼は、演説でもするように話を続ける。

「生徒会をやるということは全校生徒、つまり全女子に顔と名が知れ渡るということ。一年のうちから知名度を上げ、生徒会長になってかっこいい挨拶(あいさつ)なんかかませば、もうそれだけで」

「そ、そんなうまいこと……」と言いながら、俺の口元は緩んでいる。

「顔、にやけてる」

バレてる。

俺は慌てて、首を横に振った。

「いやいや、そんな理由で立候補するなんて失礼だろう」

彼はふうと短く息を吐き、「じゃあ」と教科書を俺に返した。

「おれひとりじゃ心細いから。理由はそれでどうだ?」

一つ回り出せば、次々と動き出す。機械の中の歯車のように。この衝動に乗って、見たことのない世界に行ける気がする。

「そういうことならとりあえず今年、書記に立候補してみても、いいけど。でも来年、生徒会長を目指すかはまだなんとも……」

待てよ、俺。そもそも書記になれるかどうかすら、分からない。動き出した心は、今なら止められる。できないなら、やめておけ。やれないと思うなら、やめておけ。

「なるよ」

彼は、当たり前のことを聞かれたかのように平然と答える。

「だって、戦隊もののレッドで、正義のヒーローで、名探偵」

「なんだそれ」

「君の、誰にも言えなかった将来の夢」

「いつの話だよ」

胸に秘めた、理想の主人公になっている俺の姿。ただかっこよくなりたかった、あの頃。生徒会長になれば、そんな憧れに近づけるのか?

「とにかくなるんだ。一年間、生徒会の活動をすれば、必ず生徒会長に憧れる。なりたいと思うようになる。おれを信じて」

彼の目が俺をとらえる。もう逃がす気ないじゃないか! それに俺は、こいつと過ごしてきて後悔したことはない。俺が一度大きく(うなず)くと、彼は満足げににっこりと笑い、こう言った。

「生徒会長は、かっこいいんだよ」

「たしか、バスケ部の背の高い人だよな。まあ、男前かも」

「誰よりもかっこいいんだ」

ふうん、と適当に返しながら、生徒会長は顔がかっこよくないといけないのかと変なプレッシャーを感じた。自信ねぇよと落ち込んだ。髪を切りに行く予定を立て、背が伸びるように毎晩、祈った。

この言葉の意味を知るのは、もう少しだけ先。