吹荒れる砂隕石に突入
ウラシマの前方3au、4億5千万キロメートルのところに、偵察衛星ハヤブサロボが先行している。この先行しているハヤブサロボから、砂塵隕石があるとの報告が入った、宇宙の中の砂漠地帯である。
ウラシマが出発して以来の最大の危険が到来した。
乙姫は再びマザーの中の6人の主人を呼び起こした。
「大変です。大変です。早く起きてください」
急に起こされた6人の主人は、
「乙姫、急に起こして何事が起きたのですか」
乙姫は宇宙砂漠のデータをつぶさに説明した。
この宇宙砂漠は、平らなほぼ円形のお皿みたいな形状で、東西南北50億キロメートルほどあり、ウラシマはその軌道を回避することができないほどの広さである。
かつて超新星爆発があったとき、星のカスが一団となって浮遊し始めたものだと思われる。
50億キロメートルといえば、太陽系ほどある広がりであるが、砂塵の塊なのでレーダーにも望遠鏡にも映し出せない。
乙姫は、この砂塵を避けるには進行方向を45度以上変えなくてはならないし、避けきれるかどうかもわからない、困惑の状況である。
かつて宇宙観測船ボイジャーが、土星のリングの中を潜り抜けたことがあるという記録を探し出し、乙姫は私にもできるのではないかと気分を切り替え急に元気になった。まるで子供のようである。
「私もチャレンジしてみよう」
刺激の少ない長い退屈な船旅である中での出来事。乙姫はマザーの中にいる電子状態の6人の主人と相談した。
最初に最も冷静な織田が「そんなの危険だ、遠回りでもいいから回避した方がいい」
ロケット開発の堀内は「ウラシマには外壁に氷の壁と月の岩石で鎧をまとっているから大丈夫じゃないの」と、楽観的意見を述べた。
天文学者の星野は「隕石砂漠の中を是非観測してみたい、こんなチャンスはまたとない機会だからな」と、興味を持った。
慎重な織田が「星野さん、観測して何か成果が出ても発表する場はどこにもありませんよ」
と、くぎを刺す。
星野は「僕は自分が満足できればいいのです。発表の名誉なんかに興味はありません。そんなこと織田さんが一番知っているんじゃないですか? 織田さんは意外と怖がりなんですね」
と、茶化した。
AI研究の伊藤は「僕は乙姫を信じている。乙姫がいいと言うなら砂漠を通り抜けてみよう」
医師の本多と中本は、
「私はよくわかりませんので皆さんにお任せします」と、さっさとその場を離れ、2人でiPS細胞の保存状況や生命維持環境の点検を始めてしまった。