【前回の記事を読む】私は猫の死に憧れていた――死期を悟ったら、どこだか知らない所へでも行って人知れず消えようか…とおもったりもする母屋の近くにある苗畑には、悠輔が新種の桜の誕生を願って植えた最後の接ぎ木がある。「成長が早うて花は紅の八重咲きやとおもうで」背が高く額の秀でた悠輔が笑顔で言ったのを覚えている。毎日、水かけをしているが、芽の先の薄萌葱色(もえぎいろ)が濃さを増したようにおもえる。確かに…
[連載]薄紅色のいのちを抱いて
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小説『薄紅色のいのちを抱いて』【第4回】野元 正
あの日、しだれ桜がしきりに散り降る晩、とうとう夫は帰ってこなかった…よりによってその日は結婚記念日だった
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小説『薄紅色のいのちを抱いて』【第3回】野元 正
私は猫の死に憧れていた――死期を悟ったら、どこだか知らない所へでも行って人知れず消えようか…とおもったりもする
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小説『薄紅色のいのちを抱いて』【第2回】野元 正
桜の園で気の合った男女がいつの間にか結ばれるように、桜同士互いに交配して偶然花も鮮やかな新種ができることもあった
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小説『薄紅色のいのちを抱いて』【新連載】野元 正
花冷え以上に気温が下がったある日――大紅しだれ桜の枯れ枝を剪定中に夫は突然倒れあっけなく逝った
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