ちょうどその時、赤龍の館へ向かって歩いている羅技と幸姫の姿を龍王が見ていた。
「羅技姫と幸姫ではないか! 本日は赤龍の報告だった。報告は赤龍だけで良いのだが、羅技姫の快活な話し方がとても面白く、なによりも姫の快活な笑いが大好きじゃ! ん? 姫達は何やらとても深刻な顔をしておる。それに幸姫は泣いておるではないか。何時もコロコロと笑顔の可愛い姫なのに。そなた達のよく聞こえる耳で二人の会話を聞いてみよ!」
と従者に命じた。
「幸姫様は紫龍殿のことを話されておられます。ご自分に非があるのでと、それを繰り返されて申されております。一方、羅技殿はその様なことはないと慰められておられます」
「ほう? 羅技姫を姫ではなく、殿と呼ぶのか?」
「は、申し訳御座いません。私達従者や天女達は四人の姫様の内で羅技殿が大好きで御座います! 幸姫様も舞を見せて下さいまして和やかな気持ちにして下さいますが、羅技殿は誰にでも分け隔てなくお声をかけて下さり、時には剣の稽古! あ、いや剣の舞を教えて頂いております」
「ほう! 剣の舞とな? 余もその舞とやらを観たい! 次回の稽古は何時じゃ?」
「そ、その……羅技殿は最近お忙しい様子で……」
慌てて従者はお茶を濁した。
「そういえば、天女達が赤龍と紫龍殿の御両名様はここ数日御屋敷にお戻りになられていないと話しておりました。龍王様の御用事で何処かに出向かれていらっしゃるのですか?」
「いや? 余は二人に命を下しておらぬ」
「私は、紫龍殿のお傍に寄られた姫様を睨み付けられると直ぐ龍体になられ、何処かに飛んで行かれたと天女達が話していたのを聞きました」
「そうか。羅技と幸姫を余の元へ呼んで参れ!」
「は、はっ! かしこまりました」
従者は羅技達の所へ走り寄ると龍王様が呼んでいることを伝えた。
「私達に何の御用でしょうか?」
「我が本日の報告をしなかったのが龍王様の気にさわられたか?」
足早に向かい、龍王の前に来ると両の手を付き頭を深く下げた。
「龍王様。申し訳御座いません。本日の報告に席を外した無礼の段、お詫び申します」
羅技が口早に話した。
「頭を上げよ! そんなことではない。固苦しい挨拶は無用じゃ。そなた達に申し付けたき儀があるのじゃ。これは余、龍王の命令ぞ。本日、夕刻よりそなた達二人は龍王殿に上がり、余に仕えよ。余の側室となり、終生龍王殿より出る事を禁ずる」
「私達は龍王様の皇子。赤龍殿、紫龍殿の妃です」
と羅技姫が言うと、
「龍王様、私たちには畏れ多きこと。どうかお許し下さいませ」
幸姫も続けて口を開いた。
「否とは申させぬ。これは余の命じゃ」
羅技と幸姫は急ぎ、赤龍の館へと向かった。