【前回の記事を読む】【小説】「もっとお話を聞きたい!」伝説となった龍神たち
龍神伝説
幸姫は岩の縁に腰を下ろすと同時に、瞳から大粒の涙をポロポロと流した。
「如何したというのじゃ、急に泣き出すなんて。何時も笑顔を絶やした事が無いそなたが。さては紫龍殿と初喧嘩でもしたか?」
「い、いえ……」
泣くばかりでなかなか話をしようとしない幸姫を見て、羅技は胸が苦しくなった。
「そ、そういえばこの前、赤龍をギャフンと言わそうとした企みは直ぐにばれてしまって、あげくに我は赤龍に尻をおもいきり叩かれたわ。それも三度もだぞ。赤龍に乗って地上界への視察に行くときは、暫くは尻が痛くて参った。それが原因か?」
「いえ、その事とは関係御座いませぬ。でも、赤龍殿が姉上様のお尻を、まるで子供の様に叩かれたのにはとても驚きました」
「だが、そちが尻を向けて叩いてくれと赤龍に言ったのには参った! すまぬ事をした。紫龍殿はおろおろして可哀相であった。何故ばれたのであろう?」
「姉上様が、頬に花子を描くのをお忘れになられたからです!」
「そうか! それはうっかりしておった」
「紫龍様はわたくしがお嫌いになられたのです。ここ十日前より私をお避けになられ、お会いすることも出来ませぬ」
「なんじゃと? そなた達を見て、赤龍も目の前でいちゃつくなどけしからんと、時々愚痴をこぼしていた程だぞ?」
「先ほど天女達と楽しそうにお話しされていた紫龍様をお見かけし、わたくしもお仲間に入れて頂こうと紫龍様に近寄りました。すると、紫龍様は凄い形相でわたくしを睨むと龍のお姿に変わって、勢いよく西の空に向けて飛んで行かれました。
何時もはお仕事が終えられると部屋の外から御呼び下されまして、中庭にてお茶とお菓子を召しあがりながら、羅技姉上様が地上界で観て来られたことを龍王様にお話しされる様子を、屈託の無い笑顔で色々と御話し下さっていました。それがわたくしにはとても嬉しくて! ここ数日一切それは御座いませぬ」