「なんと? 紫龍殿はそなた以外、天女達が側に近寄る事をとても嫌っていたのではないか? それなのに天女達と楽しそうに話していたと? そしてそなたを睨みつけてその場から立ち去った?」
「紫龍様の御顔は恐ろしゅうございました。七日に一度の早朝、龍王殿にて皆揃いて龍王様に御挨拶申し上げる行事にわたくしは明日より辞退致します。紫龍様がまたわたくしを避けられるかと思うと心が潰れそうで……」
「我は龍王殿で紫龍殿にお会いしておるが、普段と変わらぬ様子だった。あっ、そう言えば赤龍もここ暫く館には帰って来ぬのう」
「赤龍の兄上様も?」
「地上界の見回りの出立する刻限が決まっており、館の中庭に赤龍が来ておるから別に気にしておらなかったけどな」
「地上界で保些殿と結ばれたことがお気に召されないのかも……」
「何を申すのじゃ? そなたの身体は一度朽ちてなくなった。今の身体は天が我にそなたの魂を入れ、鳳凰炎転の儀式をして下された! その時に我の身体の傷跡もなくなった!」
「私の心には紫龍様御一人しか居りませぬ」
「そなたは清い心の持ち主で落ち度など有るものか! なんどきも騒動を起こす我とは大違いだ。そなたを泣かす紫龍殿に事の真意を聞かねばならぬ」
羅技は幸姫を泣かせる紫龍に、怒りの顔をあらわにした。そして禊の泉から飛び出し、控えの間に入ると天女達を呼び出した。すると数人の天女が嬉しそうに控えの間に入って来るやいなや羅技の身体を拭き、衣を着せ始めた。
「いつもこの様にされておられますの……?」
「そうじゃ!」
「きりっとした羅技様のお顔はとても素敵ですわ!」
天女が言うと、羅技姫はまんざらでもなさそうな表情を見せた。