【前回の記事を読む】「紫龍様は私がお嫌いになられたのです」姫が涙した理由とは

龍神伝説

「紫龍殿の事、姉上様のお耳に入れた方が良いかのう……」

「姉上様は、もう産み月ゆえ、御心配をおかけしてはなりません」

「そうであったな! 紗久弥も楽しみに毎日、姉上様の所へ行っておる」

「紗久弥はお腹の音を聞くのが余程嬉しいのね!」

清姫は笑った。

「コトコトと命の音を感じて幸せになるの! 私も御母上様のお腹に居た時、こんな感じだったのね!」

と紗久弥姫は満面の笑みを見せた。

「紗久弥が母上様のお腹にいた時にも、羅技が同じ様に母上様のお腹に耳を当てていたわ! 紗久弥が産まれるのを今か今か、とそれは楽しみにしていたの!」

と清姫は昔を懐かしんだ。

「まあ!」

龍神(たつ)(もり)の里に居た時、羅技は貴女の願い事を何より一番に叶えてくれていたでしょ」

「はい! 羅技姉上様のお心の広さは里の民も敬愛しておりました。でも、私は何時も我が儘ばかり言っては姉上様を困らせてばかりで……。羅技姉上様は私の欲するものを与えて下さいました」

紗久弥は里での日々を思い返していた。

「清のお腹の子が産まれるまで暫く館に留まっていても良いぞ!」

白龍が言うと、

 

「紗久弥は余の妃です」

と青龍が答えた。

「あはは! 冗談じゃ! 紗久弥姫はこの度十四歳になった……。妃になるのはまだ四年も先だぞ」

「部屋は別々でも食事は一緒です。それに、私の仕事が済めば一緒に遊んでいるのですから」

「あはは! 遊んでいるとな!」

「ところで兄上様。赤龍と紫龍兄上様方は館に帰らぬと従者達が話しておりましたが」

「幸姫は昨日私に会いに来た時、元気がなくてどこか寂しげにしておりました。それにいつも紫龍様と一緒に来るのに従者の方と来たのですよ」

清姫は首を傾げた。

「龍王様の命で何処かに出向かれておられるのではなかろうか? 羅技姫は相変わらず天女達と毎夜、館にて賑やかにしておったぞ」

白龍が答えると、

「紫龍様と赤龍様は何時お戻りになられるのでしょうか? 幸は紗久弥と同じでとても寂しがり屋さんだから可哀相……」

と清姫は不安そうな表情を見せた。

「私は青龍様と一緒ですので寂しくありませぬ。最近は龍体の青龍様の背に乗れる様になりましたのよ! 羅技姉上様に教えて頂いたの! 昨日は鳳凰の雛を見て来ましたわ」

紗久弥姫が鼻を高くして言うと、

「おんぶでは格好悪いからな!」

と青龍が笑った。

「あの……青龍様。これから幸姉上様の所へ連れて行って下さいませ」

「紗久弥が行くときっと喜ぶでしょう! お菓子を持って行きなされ。早速用意してあげましょう」

清姫が言った。

「わあ! うれしい。青龍様は太るからって最近お菓子を食べさせてくれないのよ」

「こら! そう言うことは黙っておれ。太られでもしたら背に乗せられなくなってしまうではないか。鳳凰の雛が居る天界に駆け上がるのがやっとだったのだぞ」

「青龍よ! 余がきたえてやろう。」

白龍の言葉に青龍は紗久弥を負うと

「この通り体力はあります!」