自分の欲求に打ち勝つ
孔子は生涯を通じてたくさんの弟子がいました。その中でも、顔淵はとても優秀で、孔子の一番の弟子と言われ、孔子を生涯の師匠と仰ぎ、心から尊敬していました。孔子もまた、顔淵の人柄や振る舞いの中に、優れた理解力と才能を見出して、なみなみならぬ情熱と愛情を注ぎ、我が子のように育てていました。
孔子は顔淵との対話が仁の心を究めるための生活の一部になっており、顔淵との対話を通じて、仁の心を深めることに喜びを見出していました。
ある時、顔淵は師匠に仁の心を身につけるには、どうしたらいいかと聞きました。孔子は顔淵に言いました。「まずは自分の欲求に打ち勝つことだ。人の欲求は無数にある。あれが欲しい、これが欲しい。こうしたい、ああしたいと、人の心の中はつねに欲求だらけなのだ。仁の心はこの対極にある。自分の利益だけを考えず、無欲で謙虚な気持ちに立ち戻ることで、そこから仁の心が芽生えていく。
ひとたび仁の心が芽生え始めると、その人の周りの人たちにも、その心が伝わり、ひいては世界中のすべての人に仁の心は広まっていく。無欲で謙虚な気持ちに立ち戻るのは、誰かに頼ってできることではない。すべて自分の気持ち次第だ。
自分を律し、謙虚な姿勢で礼儀礼節を重んじ、それに反するような振る舞いは、習慣として、できるだけ見ないようにし、聞かないようにする。そして、言わないようにし、行わないようにする。これが自分の欲を抑え、謙虚な姿勢に立ち返る秘訣だ」