仁の教えを広める
その王様が、孔子を呼んで聞きました。「国をしっかり治めるには、どうしたらいいものか、ぜひ教えてほしい」
孔子は王様だからといって気をつかうこともなく、嘘や偽りのない、誠実な気持ちで、きっぱりと言いました。「王様が遊び呆けていたり、悪い行いをすれば、世の中の秩序は乱れるに決まっています。王様は国を率いる立場として、王様らしく尊敬されるような人徳を持ち、人として正しいことを行う必要があります。
同じように家来も家来としての立場にふさわしい立派な態度が求められます。なぜなら、家来たちこそが、王様の代わりとなって、人々に接するからです。人々は、家来たちの振る舞いを見ているものです。家来たちが人々から尊敬されるような、道徳的に正しい振る舞いをすれば、人々もそれを見習って同じように振る舞うものです。
家庭の中でも、親は親らしく振る舞い、子供に勉強を教えたり、礼儀作法を教えたり、家の中をいつも清潔に掃除し、整理整頓して、子供から尊敬されるように努力しなければなりません。子は子として、そのような尊敬する両親を見習って、立派な大人になるように努力しなければなりません。それぞれが、それぞれの立場で、謙虚な気持ちで、人として、道徳的に正しいことをすれば、国は正しく治められるはずなのです」
それを聞いた王様は、自分の振る舞いや態度を振り返り、いたく反省しました。そして言いました。「まさしく孔子の言う通りだ。それこそが真実だな。王が王たるにふさわしい徳を発揮することに努力せず、家来が人々から尊敬されるような正義を実践せず、親が子供から尊敬されないような振る舞いをし、子供が親を尊敬しないようになってしまうと、道徳が乱れた世の中になるのは当然のことだ。
そのような、乱れた国で、たとえ作物がたくさんとれて食料に困らなかったとしても、王としては、心穏やかに食事ができるはずもない。今までなぜ気が付かなかったのだろう」
王様は、みずからの振る舞いを大いに反省し、悔い改めることを約束したのでした。