食事に行けば行ったで、体を寄せあったり、キスしたりと淳美の前などお構いなしにいちゃついてみせた。淳美はそれを苦々しく思いながらも、親友の幸せは見守ってあげなければいけないと自分に言い聞かせた。羨ましい気持ちはあったが、その不満の矛先はあかねへというよりも、積極的になれなかった自分自身に向けられた。
潮目が変わったのは、あかねと光彦が付き合い始めて1年が過ぎた頃だった。光彦はあかねの強引さに疲れを覚えるようになっていた。光彦はあかねについて相談したいと言っては、淳美を食事に誘うようになった。光彦と食事をするのを、淳美は素直に喜んだが、そのときはあかねから光彦を奪おうなどという気持ちはまったくなかった。ただ二人で一緒に過ごすわずかな時間が、淳美にとって幸せなひとときであったことは認めざるを得なかった。あかねに対する罪悪感を持ちながらも、淳美は光彦の誘いを断ることができなかった。
ある昼休み、洗面所にいる淳美の元にあかねが真っ赤な顔をしてやってきた。歯磨きをしているまわりの人など目に入らない様子で、あかねはわめき立てた。
「あんた、私から光彦を奪う気?」
「えっ、なんで?」
「とぼけないで。あんたが光彦と二人で食事しているのを見た人が何人もいるのよ」
「ああ、あれは何でもないの。ただ相談があるって言われて」
「じゃあ、どうして隠したりするの。友達なんだから言ってくれたっていいじゃない。やましいところがあるからでしょ。この裏切り者」
あかねは淳美の頬を思い切り平手打ちすると、トイレへ駆け込んだ。その直後、トイレの中から人目もはばからない大きな泣き声が聞こえてきた。この出来事をきっかけに光彦とあかねは別れ、淳美とあかねの関係も険悪なものに変わった。あかねは淳美をあからさまに無視するようになり、二人の会話は仕事上最低限のものだけになった。
その後、淳美が光彦と付き合い始めると、あかねはすぐに見合い結婚をし、会社を退職してあっさりと長野へ移ってしまった。淳美と光彦が結婚したときも、あかねと連絡を取り合うこともなく、これで二人の関係も終わったかに思われた。
ところがある日突然、淳美の携帯電話にあかねから連絡が入った。二人は昔よく一緒に行った喫茶店で会う約束をして、電話を切った。