そこまで話すと佳津彦は墳丘を降りてコンビニの袋を持って戻り、明日美を諭してその場に座り、

「あの地震で町は大騒ぎだ。弁当を買うのも一苦労だったんだぞ。お腹がすいたろう、さあ食べなさい、腹が減っては戦ができぬ」

そう言って袋の中から取り出した物は飲み物や弁当だったが、その中に、明日美の主食ともいえる好物のスナック菓子が大量にあるのが見て取れた。

明日美は無言でうなずき、空腹だったことを思い出して食べていると自然に涙が溢れてくるのだった。年端ない女の子には、あまりにも衝撃的な出来事の数々に、受けた心の痛手は計りしれないものがある。芯の強い明日美の中に普通の少女を感じるのであった。

「大変だったなあ、これからは私も一緒だから心配しなくても大丈夫だよ」

佳津彦は明日美の頭をなでながら労いの言葉をかけた。

「そうじゃないのお父さん、この冷えた唐揚げがめっちゃ美味しいの、それにこの冒険が凄く楽しいの」

娘の意外な言葉に拍子抜けするとともに、だんだんと笑いがこみ上げてくるのだった。

「そうか、冒険か、お前もやっぱり天見家の血を引いているな。私もそうなんだ、これまでの謎が今一遍に解けようとしているんだ。子どもの頃から欲しくて欲しくてたまらなかった物がやっと手に入る。そんな気持ちでワクワクしてるんだ」

微笑みを浮かべて佳津彦は天見家に代々言い伝えられてきた古事を話し始め、明日美は弁当を食べながらそれに聞き入っている。

「明日美に話すのは時期尚早と思っていたが、今その時がきたと同時に伝承も終わるというわけだ。心して聞きなさい。伝承とは遥か昔に遡り、古墳時代から始まったと考えられるんだ。そしてあの祠に祀ってある神とは我々天見家の先祖であり、その者は、西の国から兵を引き連れ突如として現れた女王で、今でいう超能力者だった」

そこまで話すと明日美は、「やっぱり女王様だったんだ、そんな気がしてたのよねー、だって私に命令するのよ」

そう言って思い出したように頬を膨らませてみせた。

「でも祀ってあるのは静御前だって聞いた覚えもあるんだけどなぁ」

明日美は上を見上げながらとぼけたように重ねて言った。

「まあ話は最後まで聞きなさい。その伝承を表沙汰にできなかったご先祖様が、いつの時代か静御前にすり替えたようなんだ。と言っても鎌倉時代以降だがね、もしかしたら本当に静御前がこの地にきたのかもしれないな」