俳句・短歌 短歌 2022.05.13 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第62回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 三寒の寒さゆるびてかぎろへば 冬田つヾきの海光るかも 筵むしろたれて冬構へする韓びとの 家並は低し川にむき立つ いささかの青菜貯へ韓人の 冬のたつきは簡に過ぎたり
小説 『眠れる森の復讐鬼』 【新連載】 春山 大樹 赤信号無視の乗用車が、トラックに衝突し大破した。シートベルトをしていなかった重症の若者が搬送された、その病院の医師は… けたたましいサイレンの音が鳴り響いている。そしてその音は嫌な気持ちになる程どんどん大きくなってきて、すぐそこまでやってきたと思ったら突然聞こえなくなった。ERの自動ドアが開いて救急車から下ろしたストレッチャーを白いヘルメットと青いコートを身に着けた二人の救急隊員が中に運び入れた。ストレッチャーの上で、頸椎カラーを装着され、オレンジ色のクッションで頭部をバックボードに固定された若い男が苦しそうに冷…
小説 『ダンテ、ふたたび』 【新連載】 山下 正浩 【神曲オマージュ】55歳のおっさんダンテ―!? 睡眠薬を常用し、消化器内科で治療中の彼が、再び森へ迷い込む。 この作品を、最愛の妻”典子”と娘”優希”に捧げる。いつもいつも、味方でいてくれてありがとう。本作はダンテの『神曲』地獄篇の知的なオマージュ作品……のつもりだが、パロディでもあり、ナンセンスギャグ満載である。ダンテが描いた地獄篇で主人公は三十五歳であった。それから数百年を経て、ダンテ五十五歳がふたたび森を彷徨う。すっかりオッサンになった彼は体内に悪魔を飼っているし、数百年前の地獄巡りなんてちっとも…