外伝 一の巻 龍王の悪戯
黄金色に輝く天上界の門が大きく開き、羅技姫を背に乗せた赤龍が地上界より勢いよく戻って来た。そしていつものように聖殿の庭にふわりと降り立とうとしたその時、駆け寄る幸姫の姿があった。
羅技姫が赤龍の背より飛び降りると、赤龍は身体より赤い光を発し、光が消えると同時に人型に姿を変えた。
「これは幸姫殿! この様な所になぜ……。此処は天上界と地上界を結ぶ場である。立ち入る事は禁じられている聖域ぞ」
「はい。十分存じております。お咎めを受けるのを承知で参りました。どうしても姉上様に急ぎお話ししたきことが御座いまして……」
「幸よ。我は禊を受け、赤龍と共に龍王様に地上界で観たことを急ぎ報告致さねばならぬ」
「龍王様の謁見が終えるまで、ここで姉上様をお待ちしております」
「今回は余、一人で報告致そう。紫龍に内緒とあれば余程の大事なのであろう」
赤龍は言った。
「すまぬ」
「そんな情けない顔をするな。羅技らしくないぞ。幸姫、羅技とゆるりと話をしなさい」
赤龍は幸姫に微笑むと、足早に龍王殿に向かって行った。幸姫は赤龍の後ろ姿に深々と一礼した。
「我は禊場で身を清めねばならぬ。そこでそなたの話を聞こうぞ。禊の泉には天女も入って来られぬ。話を聞かれる心配はない」
禊場にある九匹の龍がいる泉場に入るやいなや、羅技は衣を脱ぎ捨て、頭から泉にドボンと飛び込むと、くるりと一周泳ぎ幸姫の元へ来た。
「幸や! そなたも入らぬか?」
「いえ、私は結構で御座いまする。姉上様……、禊の作法は変わっておられますのね?」
「頭から禊の水を浴びるにはこれがてっとり早いのだ!」
「わたくしはこの禊場の泉に来るのが嫌で御座います。こんなに薄暗く、それにあの龍達に見られている様で恥ずかしい」
「あの龍達はただの作り物ぞ! しかし……どれも赤龍より良き顔立ちをしている! アハハ!」
「まあ……。姉上様はとても楽しそうに禊を受けられておられるのですね」
「神聖な禊の泉で泳ぐなどとんでもないと、赤龍に何時も大叱られしておるわ! 禊は厳かに身と心を静めよ厳粛にとな! 初めて禊場に入った時、我の発した奇声に驚いた赤龍が飛び込んで来て泉に入っていた我を担ぎ出したのだ。奇声を悲鳴と間違えてな! 禊場ではしゃいでいたと知ると体を震わせながら一喝された。それも大きな声でな! しかし、我の素っ裸を見るなり慌てて龍体になりながら飛んで行ったわ! 以前、奥宮で素っ裸になった我を平気で見ておったのに……」
「まっ……」
「ところで幸? 禁を犯してまで聖殿の庭に立ち入る程に大事な話とやらを話しておくれ」