【前回の記事を読む】「本当に女であるか皆に見せて進ぜよう」姫がとった衝撃行動…
龍神伝説
「あ、パパ、湖に白い雲みたいなものが出てきたよ!」
明日香が言うと、
「それを霧と言うんだけど、霧にも名前があって、羅技姫の領巾と言うのだよ」
「綺麗な霧ね。まるで薄絹のベールみたい! パパ、風が冷たくなってきたのでそろそろジイジとバアバのお家にいきましょう」
母親はそう言うと膝の上で眠っていた男の子を優しく抱きかかえ、父親と女の子はシートをたたみ、一家は丘を下りて行った。
すると、丘の上に龍王の皇子と姫達が透き通るように現れた。幸姫は握っていた右手を差し出して広げると、手のひらの中には杏の花びらが数枚あった。紫龍がふっと息を吹くと、花びらは丘を下りて帰って行く親子に向けて飛んで行った。
明日香は目の前に飛んで来た花びらを両手でとり、そして嬉しそうに両親に見せた。二人は花びらを見て驚きの表情を浮かべた。
「まあ!」
「こ、これは、杏の花びらじゃないか? もうとっくに散ってしまっている頃なのに。まだ咲いていた木が残っていたのかなあ~」
明日香はポケットからハンカチを取り出すと、そっと花びらを包み入れた。
「そういえば、僕の家は代々長女が宮司となって神社を守って来たんだ。今は姉さんが宮司になっているけど、姉さんは子が産めないので……。後継者を探しているんだ。それと、僕が小さい頃に、おふくろがよく龍神とお姫様の話をしてくれたなあ。その中の一人のお姫様が杏の花が好きだったって」
父親が懐かしむように言うと、明日香は龍神とお姫様の話に瞳を輝かせた。
「パパ! バアバに龍神とお姫様のお話を聞きた~い! ジイジにも会いたい! 霧の名前が羅技姫様の領巾って何? どうして? ねえ、おばちゃんの神社にも行こうよ! 明日香がおばちゃんにあとつぎになるって指切りしたのよ」
明日香は父親の手を引っ張り、急かしながら丘を下って行った。
おしまい