【前回の記事を読む】「彼氏欲しくない?」上京したての少女が友人に誘われた先は…
第三章
適当に相槌を打っているだけで酔っ払い相手ができたのでなんとなくその場に打ち解けられた。
「あれ、新しい子? 誰?」
……お酒臭い。根本が黒く伸び切っていてパーマを当てた赤髪頭の男が隣にやってきた。顔を近づけてくるとお酒と唾が飛んできそうだったので、私は上半身を逸らして距離を置いた。
「恵の友達の里奈です」
「里奈ちゃん可愛いね〜。え? それもしかしてお茶? だめだよ。お酒飲まないと! ほらほら」
赤髪男は私の持っているウーロン茶によく分からない液体を注いだ。
「すいません。ちょっとトイレ!」
怖くなった私は女子トイレに駆け込んだ。クラブが嫌いになりそうだった。こんな時祐介がいてくれたらと切なくなる。まだ祐介のことが忘れられないでいた。
「大輔また彼女変えたって」
「まじ? 何人目だよ」
個室に籠っていた私に聞こえてきたのは、恵の彼氏の大輔の名前だった。すぐに外に出るとトイレには行列ができており、広い化粧室では厚化粧の女の子たちばかりで騒がしかった。その中の二人組が鏡の前で髪の毛をいじりながら大輔の話をしている。
「大輔」
なんて名前の男は山ほどいるが、気になった私はさりげなく化粧直しをしながら話を盗み聞きしてみた。
「大輔ってクラブに来る女の子のほとんどと寝てるって噂で聞いた」
「今の彼女、めぐみだっけ? あの子もいい噂ないよね」
「やばい人と繋がってて高校の時からいろんなクラブで遊び回ってるんでしょ」
「男も男なら、女も女か」
女たちは乱れた髪の毛を直すと女子トイレから出ていった。今の噂が本当なら恵に知らせてあげなきゃ。すぐに席に戻ると恵の姿はなかった。最近アイフォンという携帯に機種変更したばかりで、慣れない手つきで
「今どこ」
とだけラインを送ったが返事はない。探しに行きたいが人混みの中を一人で回る勇気がなかった。少しの間待っていたが、赤髪のパーマが視界に見えた気がしてすぐにクラブを出てしまった。恵は普段からクラブに来ているし、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせると、私は自宅へ帰った。
デザイン机の上で携帯が鈍く振動する。それは滅多にない母からの着信だった。学校で制作をしていたのでデザイン室から離れ、ひと気のない喫煙所まで移動して電話にでた。着信が来た時点でだいたいの察しはついていたが、案の定、父についての話だった。
「は? どういうこと? 本当に理解できない」