【前回の記事を読む】間違った読み方が市民権を得る…驚きの言語現象を解説!

イメージ恐るべし

だいぶ以前のことであるが、家庭の主婦が一五万円を拾ったので警察に届け出た。担当の巡査がその拾得物を着服してしまったのだが、主婦は逆に犯人扱いをされ警察から執拗に自白を強要された。来る日も来る日も「お前が猫ばばしたんだろう」と頭がおかしくなるほど追及され、自白寸前まで追い詰められる。

お母さんがそんなことをするはずがないと信じていた家族も警察の追及が長引くにつれて「もしかしたら…」と不安を抱くようになったという。家族でさえもそのような不安が頭をよぎったとしたら、世間は「あそこのおっかさんが一五万円拾って猫ばばしたんだってよ」ということになってしまう。マスコミだって警察の発表をうのみにして報道するから、世論形成に拍車をかける。

この主婦のように自分は絶対にやってないという事実に基づく確信があったとしても自白寸前で踏みとどまれたのは奇跡的だったかもしれない。警察署あげての自白を求める執拗な追及や世間の疑惑の眼差しを感じたとしたら、誰も信じてくれないのかと自暴自棄になり、よほどの強靭な意志の持ち主でもない限り、事実無根の罪の自白ということになりかねない。

一般に、一個人の言うことと警察やマスコミの言うことと、どちらが信じられるだろうか。伝統的な権威の低下現象が著しいとはいえ、未だに警察やマスコミを信じる人の方が圧倒的であろう。

警察は社会の秩序を守ってくれる機関であり、マスコミは事実を客観的に報道する機関であるというようなイメージは未だに根強い。依然として警察やマスコミは現代の権威体系の最たるものであろう。