途中携帯電話で秋山氏と新藤監督に連絡を取り事情を話した。両氏とも出迎えの体制を取ると約束があった。あわただしい顛末となったが婆須槃頭らしいと思った。
放送局に着くと玄関に秋山氏が待っていてくれた。ほかに二、三人の番組スタッフがいたが私とコンタクトを取るとそそくさと姿を消した。
それからかれこれ十五分ほどして、一台のタクシーが玄関前に滑り込んだ。後部座席には見覚えのある一人の男が巨体を縮めるようにして乗っていたが、車から降りるとすっくと背を伸ばし、私に手を振り合図を送った。慣れた仕草だった。私は近寄って声をかけた。
「婆須槃頭さんですね。笹野です。ようこそ日本へ」
「笹野さん、お久しぶり。見た感じまた大きくなられましたね」
「大きくなったかどうかはわかりませんが、インドでお会いして以来ですね。あれから何年経ったやら。お手紙もありがとうございました。今日はまた実に良い日になりそうです」
「私もインドで話せなかったことをここであなたに話せることを大きい喜びとしていますよ。放送局の特番では良い司会とナレーションをお願いします」
私と彼はごく自然に握手を交わした。私は婆須槃頭を見上げた。
インドでのあの日。私は只々彼を異形のものとして捉えていた。
そして今日の微笑を湛えた彼は一個の青年だった。大柄で他を圧するムードは諸外国の映画撮影で培ってきたものもあるらしい。が、また実に気をそらさない雰囲気をあの日以来加えてきてもいた。