いつの間にかこの母親の言い方は、男の人、から、男、に変わり、口調も控えめで投げやりな話し方から、自信たっぷりの話し方に変わっていた。
「あたしに関心を持つ男の言うことを聞かせるのは簡単です。でもあたしに関心がない男には、何を言ったってダメなんだから、さっさと見切りをつけないといけませんよね」
この女性の生き方はたくましいと言えるのかもしれない。逆境の中で自分の生き方を見出したのだから。だが、そのことが娘の悲劇につながるとは。本当に人生というのは難しいものだ。
娘は、やはり女なんか生まれてしまって、と言われて育った。長女で、4歳年下の弟が生まれると、弟が一番、あんたは二番となる。そのようにしつけられていく中で、自分は弟の面倒を見て言うことを聞けばいいんだと、幼いながらに理解した。そして、自分の居場所ができてほっとしたように思った、とこの娘は語っている。弟はもう一人生まれたので、虐げられている、という感覚も持たぬままに彼女は多忙だったようである。
しかし、小学校高学年のときに弟が同じ小学校に入学してくると、彼女の受難は一層ひどいものとなっていった。弟が姉に命令するのである。姉はそれに従う。言葉遣いも乱暴なままだ。体操着を家に忘れたから取ってこいと言われたときは、家まで取りに行ってしまい、先生にたいそう叱られた。それでも弟思いのお姉ちゃんで済むところがあったが、次第に同級生たちが弟の真似をして彼女にいろいろさせるのである。
女の子の言うことは聞かないが男の子の言うことは拒まないということで、同性の友人を失ってしまった。このころ性的ないたずらもあったようだが、よく覚えていないと、あまり詳しく語れなかった。女性のカウンセラーは聞いていて絶句することが多く、話を聞いていくのがつらいと音を上げてしまったので、その後は私が母親の話と並行して話を聞いていった。