秋から冬に向かいつつある朝、冷たい空気を感じながら目覚めた。また、ここ一か月、大きな事件は起きていない、と安心しかけていた。

そしたら、たかが前屈みになっただけのことで、ぎっくり腰になった。あまりの痛さに、絶句した。たかがぎっくり腰とあなどっていた。少し時間がたてば治るだろう、と軽く思っていたが、痛くて痛くて動けない。大きな痛みに耐えられず、会社には休むと電話した。舞が心配してメールをくれた。

「大丈夫。ただのぎっくり腰で、一日たてばかなり治ると思うから」と、返信し、病院には行かず、いや、『行けず』と言うべきだが、痛みに耐え、横になっていた。

おかしな音がしたのは、十時半を過ぎた頃だった。玄関先で大きな音がしたが、すぐに立ち上がれなかったので、ハイハイしながら何かを確かめに行った。早い足音で、誰かが去っていったようだった。玄関ドアを開けたら、何もなかった。何もなかったが、足音は響いていた。

その瞬間、嗅いだことがない匂いがした。恐怖でパニックになり、一瞬気を失いかけたが、ぎっくり腰の痛みが襲ってきて、我に返った。

「警察に電話しなければ!」と思い、携帯の所へ這いながら向かった。這うのも痛くて辛かったが、警察には電話できた。担当者がすぐに伺う、と言って切れた。舞にもすぐにメールした。返事は、大丈夫? ということと、会社の人で休んでいる人はいない、という内容だった。

つまり、職場の人間が今立ち去ったわけではない、ということだ。結果、まだ誰がおかしな匂いのする気体を撒いたかわからないというわけだ。私が気を失いかけた気体は何なのか?