春の生暖かい風と街灯の明かりが程よく顔を照らしてくれ、化粧が多少崩れていても気づかれないだろう。何度も横顔を見てはカッコいいなぁと思わず口に出てしまいそうになる。公園に着くと、散ってしまった後の桜の木が綺麗な新緑に変わっていた。その下にある木製のベンチに腰を掛けた。

「会えて良かった、来てくれないかもって少し思ったけん」

「ちょっと緊張したけどね。どう? 顔同じ?」少し照れくさそうに鼻を擦った。

「実物の方が可愛い」

「祐介も写真なんかより全然イケメンだよ」

「里奈は好きな人おらんと?」

「うーん、祐介は?」

「俺はいる」

「そうなんだ」

お互いに恋愛話はしなかったので、祐介に好きな人がいることを知らなかった。心がちくりと針を刺されたような痛痒いくらいの変な感じがした。

「その子に告白せんと?」

「しようと思ってたんだけど、案外緊張するんだな」

「祐介でも緊張するんだ」

「俺でもってなんだそれ」

「年上だからそういう事に慣れてそう」

「好きな女の前では緊張するんだよ」

私と祐介は笑いながら真っ黒な夜空にうっすら見える星を眺めていた。こうして冗談を言い合って笑っているのが楽しくて、まったく考えてなかったが、祐介はその好きな子に告白しようとしているのだ。もし上手くいったら私と話してくれなくなるかもしれない。会うことも電話をすることもなくなるかも。

「祐介に彼女ができたら寂しいな」

「え?」

「彼女できたら、こんな風に会えなくなるんでしょ?」

口を尖らせて話す姿は自分で子どもっぽいなと思いながらも、半分開き直っている。そんな私を見て祐介は吹き出すように笑って前髪を掻き上げた。

「俺が好きなのは里奈だよ」

優しくこちらを見つめる瞳を私は逸らすことができなかった。あまりの驚きで口が開いてしまい、さらに子どもっぽさが滲み出る。祐介が冷たくなった私の手を握った。

「だけどこれって犯罪じゃ?」

意地悪に言っても、私の口角は上がりっぱなしで嬉しさが隠せていなかった。

「犯罪かな?」首を傾げ覗き込むように私を見つめる祐介は綺麗だ。

「誰にも言わんよ」

「じゃあこれも」

祐介の顔が近づいてきて私はゆっくり目を瞑る。祐介の柔らかい唇が私の唇と重なった。ファーストキスは暖かな風に揺られた新緑のさざめきの中、甘く優しかった。