此処は戦場。
人はおろか、動物の影さえ見え無い死の地。
激しい戦闘の末、この地は不毛の地となっていた。死の街に、乾いた風の音だけが響く。
荒れ果てた地の瓦礫の陰に、その少女は蹲っていた。
こんな劣悪な環境下に人が存在している事自体が奇跡だった。それも少女が。ひどく痩せた、十代半ばぐらいの少女だった。
強い日差しは瓦礫を溶岩のように熱し、日陰に居る彼女も熱風に肌を焼かれ、顎からは汗が滴り落ちていた。だが、暑さを気に掛けることも無く、じっと少女は視線の先を睨み付けている。
彼女の脇には小銃が。
どれくらい時間が経ったのか。既に少女も忘れていた。
遠くから、微かに車のエンジン音が響いてきた。
その刹那。
彼女の瞳に決意が灯る。そして脇にある小銃を右手で掴んだ。立ち上がって物陰から音がした方向を見つめる。
遙か彼方に土煙が見える。車のタイヤが巻き上げる砂塵のようだ。
少女の息が次第に荒くなる。
情報は確かだった。奴等はやって来た。
奴等が来るのを、少女はじっと待ち続けていた。食事も睡眠もろくに取らずにずっと。
この地区の廃屋をアジトの一つとしているという話を聞いてから、闇ルートで小銃を入手し、物陰で奴等がアジトに帰って来るのを待っていた。何時戻って来るか判らない奴等に、この小銃の弾丸を喰らわせるためだけに。
奴等はテロリスト集団。テロリスト達は突如現れ、国民を恐怖に陥れた。隣国との永い紛争により困窮した生活に不満を持っていた者達は奴等に賛同し、組織は徐々に勢力を拡大していった。組織の中でも過激派とされる一派がこの街を拠点とした事で、政府は制圧作戦を取り、両者の激しい戦いで街は荒廃した。
両親も弟も殺された。政府の大規模掃討作戦の際、奴等は私達の家に逃げ込んで来た。私の両親を盾にし、抵抗する二人の頭を銃で撃ち抜き、父と母の死体を盾にして逃げおおせた。弟もその時に連れ去られた。両親の頭を弾丸が貫通する光景を思い出すと、奴等への憎しみに視界が赤くなる。握る拳が震える。
何故私の街を選んだ。お前達が来なければ、貧しくとも平穏な暮らしを送れていたのに。
だが、ようやく迎えたこの刻なのに、身体が動かない。少女の足は震え、一歩が踏み出せない。
テロリスト達は少女に気付かずに車を停めると、廃墟の一角にある比較的形を残した建物に笑いながら入って行った。