青龍は紗久弥姫の手を取ると、優しく立ち上がらせた。

「あの……叩いたお顔は痛みませんか?」

「痛くは無い。だが、顔をおもいきり叩かれたのは驚いたなあ! どれ、そなたに余の妃となるに相応しい衣を纏わせよう。そなたが今、着ているその寝衣姿は……夜露に濡れて、素肌が透けて見え、目のやり場に困るのだ……」

「えっ? きゃっ。や、やだ~」

「今宵は特に夜露が多く、すっかり濡れて、その上汚れてしまった。このままではそなたの身体に障る」

青龍は紗久弥姫に手を翳すと、すると一瞬のうちに、寝衣は美しい衣に変え、妃である証の冠を頭に飾り、長く美しい領巾を羽織らせた。

「わあ!」

「それは我が龍族の女子が着る衣装で、妃に与えられる冠と領巾である。この衣装を纏えば夜露など簡単に跳ね返すのだ。髪もすでに乾いているだろう」

「まあ! 髪の毛が濡れていない」

紗久弥姫は喜びのあまり、青龍に舞を披露した。時々見せる紗久弥姫の顔は幼い娘の表情でなく、妖艶な成人の女性の顔に変わり、青龍は驚いて思わず息を飲んだ。

「そ、そなたの舞は素晴らしい! それにその顔……き、綺麗だ。いや。う、美しい」

「天におわします我が里の守り神の龍神様! 尊い御姿! 龍神様の御恵をここに感謝致し、喜びの歌と踊りを捧げ奉ります」

紗久弥姫は龍神守に伝わる龍神を崇える唄を歌いながら舞った。

「御身の身体は気高く、雄々しく、神々しき程に黄金に輝き満ちて、その光は里の隅々まで照らし、里の大地は潤い満ちて里の民は豊かな恵みに感謝の歌と舞を捧げたもう。」

青龍は龍神守の里の民が、父・龍王を神の如く敬っているのを知り、思わず舞っている紗久弥姫を抱き締めた。

「きゃっ」

「そなたは余の宝ぞ」

その瞬間、紗久弥姫の顔色が真っ青になり、がくっと倒れ込んだ。

「ど、どうした」

「この三日……ろくに食事が喉を通らず、寝る事も出来ま……」

紗久弥姫はそのまま気を失った。

「三日もろくに食事を取らず、寝ていないだと? これはいかん。このままでは死んでしまうではないか」

青龍は急いで龍体に変化し、紗久弥姫を抱きかかえ、物凄い勢いで空に向かって駆け昇って行った。雲は晴れ、満点の月が輝いていた。