紗久弥姫の舞
紗久弥姫は青龍の突然の言葉に驚き、理解できずにいた。
「妃? 今度は私をからかうの?」
「余はそなたの心根がとても気に入った。心から我が妃にと欲しているのだ」
「えっ? えええ……」
青龍は涙で潤んだ瞳で覗き見る紗久弥姫に胸の高まりを覚えました。そして夜露で寝衣が濡れて紗久弥姫の寝衣は月の光に当たり、透けて身体の線が見えている。慌てて紗久弥姫に背を向け、青龍は小さな声で言った。
「余もそなたもまだまだ若く、妃とするにはまだ早い。これは龍族界の理に反する。だが、その日まで余はそなたの傍に居て守ろう」
紗久弥姫は身体を震わせて泣き出した。
「余の妃になるのは泣く程嫌か?」
「い、いえ……。私の大事な母上様。父上様。そして二人の姉上様も私から去ってしまいました。今は私には羅技姉上様しかおりません。その羅技姉上様も居なくなってしまえば私の心は闇に包まれます。貴方様の申し出を受けることは出来ません」
身体を震わせながら泣く紗久弥姫を、青龍はそっと優しく抱きしめた。
「天上界と地上界は天が決めた理が在って、龍族も地上界に住むありとあらゆる生き物の命を殺めることは出来ぬ。無論、人の命を殺める事等……。そなたの住んでいた里は血で汚れてしまった。大地を清め、御父上殿や里の武人達の魂を清めることは出来よう」
紗久弥姫は、手をつき頭をさげた。
「無礼をお許しくださいませ」