生き物から着想を得たロボット
宇宙船の造船現場である地球の裏側は、常に太陽の影になっているのでライトを付けなければ真っ暗である。漆黒の現場は、24時間動き回るロボットのライトに照らされ、地上からはイルミネーションのようにきらびやかに見えている。
地上の人々は望遠鏡や双眼鏡で覗き込み、宇宙船の完成過程を日々見ることができる宇宙スペクタクルショーである。世界中の人が宇宙への関心と夢を大きく膨らましている。
織田の動物好きから始まったこの自然界動物建造方式は、建造ロボットの飛躍的な進化をもたらした。生物模擬ロボの制作の原点は、自然界にある。
例えば、スズメやヒヨドリは何千羽も一緒に飛ぶが、空中でぶつかって墜落したことがない。野原のバッタもカゲロウも空中でぶつかることもないし、捕食者が来れば逃げ隠れもする。川の中のアユも群れをなして泳ぐし、海の中のイワシも何万匹も一緒に泳ぐが、一糸乱れずぶつかることはない。
ところが、人間が作る車はいつもぶつかっては事故を起こしている。人間の作るロボットはスズメやイワシ、バッタよりもできが悪いということがわかる。こんなことから、人間のコントロールによるロボットより、与えられた本能で動き回るロボットが作られたのである。
織田は、子供の頃から不思議なことを考え、先生も回答に困惑する子であった。その織田少年のおばあちゃんが納屋の二階で蚕を飼っていたのだが、その蚕が口から糸を吐き出し、上手に繭を作るのを毎日感心して見ていた。
そんな経験から、「堀内さん、あれと同じように宇宙船を昆虫に作らせることはできないのでしょうか」と、問いかけた。
堀内は、織田の童心に帰ったような生き生きしたアイデアに、「織田さん、それは面白いですね。宇宙船やロケットの研究者は、昆虫の生態による宇宙船建造なんて考えたことがないと思いますよ。是非やってみましょう」と前向きに考える。
「面白いですね。虫が宇宙船を作るのですね」
織田が「その虫などの生物もどきロボットを、私が社長をしていた会社のORITA研究所で作らせてみたいと思いますので、設計の知恵を貸していただけませんか」と、話は進んだ。
「では、まず初めに蚕ロボットですね。口から糸を吐き宇宙船全体の形を作る必要がありますからね。宇宙では重力も上下もありませんから、何か土台になるものをまず考えなくてはなりませんが、風船みたいなものをぷうっと膨らまして土台にでもしましょうかね」と、笑いながら思い付きを述べたのが始まりで、こんな笑い話から、すべての建造が始まったのである。
堀内は、織田の話を聞き、早速建造ロボットの構想に入った。織田の発想は昆虫などの自然界の生き物からすべてが始まっている。堀内は織田から次々と出てくる発想に刺激を受けながら、基本設計をおこした。
堀内が基本設計し、ORITA研究所に持ち込まれ、研究所の大型コンピューターが詳細設計を行なう。のちのことであるが、このコンピューターは宇宙船が完成したときの搭載コンピューターとなりマザーと呼ばれることとなる。