だとしたら、別の誰かが入れたのに、知らずに私に渡したのか? 私は恨まれる覚えはなかったが、職場で好かれていなかったのも事実だ。正直にものを言いすぎて、うるさがられていたから。

だから、犯人はからかいの気持ちで、私に嫌な思いをさせたかったのか? それとも会社を辞めさせたくて、いたずらをしたのか? 

確かめたかったが、誰に聞けばいいか、わからなかった。たいがいのことにひるむ私ではないが、さすがに何から何まで一人で解決できないであろうことを悟った。なので、思い出したことと、得られた情報を警察に言うことにした。警察官は前の人と違っていたが、私のことは聞いていたようだ。真剣に話を聞いてくれ、いろいろと一緒に考えてくれた。

「推理小説のようですね。恨まれるようなことはしていないのに、なぜこんな目に遭うのか? 怪我はしていなかったし、誰かにむりやり山に置き去りにされた形跡もない。車に乗せられて行ける山でもない。救護用の車以外はだけど……。

言うなれば、何かによってマインドコントロールされたみたいだ。ここを登れ、と。ただ、気になるのは、あなたが自分のものではない服を着ていたということですね。間違いなくそれはあなたの服ではなかったのですね」

「マインドコントロール……。そんなことが、可能なのかしら。でも、服は確かに私のものではありませんでした」

そう答えながら私は、『そうだ、私の意志とは関係なく、体が動いたことになる。催眠術にかけられたとしか考えられない。そして、その場で眠り、朝になったみたいだ』と考えていた。服のことだけはわからなかったが。

「つまりは、それが誰の仕業かということです」

「確かに」と、警察官は言った。

そして、「あなたは山に置き去りにされたというわけではないが、一応被害に遭ったようなので、被害届を出されますか?」と、聞いてきた。

私は、『一応』という言葉が気になったが、「はい。出します」と答え、書類に記入した。その場は、それきりだった。まるで、何かの勘違いか、酔っぱらい女と思われたのかもしれない、と、あとで思った。話はまたも振り出しに戻った。