置き去り
帰宅してから、明日の仕事も休もう、と決め、同僚の佐々木舞にメールした。
その彼女が返信に書いてきた内容が気になった。
『休暇に入る前日はいつだった?』
と、休みの前日のことを聞いてきたのだ。
私は日にちを答え、定時に退社した、と返信した。
彼女はまたも聞いてきた。
『大木さんには会った?』
大木さんというのは、あの最後に話した上司だ。
『うん』
と返したら、
『大木さん、亡くなったよ。今日。会社帰りに、交通事故で』
という、驚くべき内容の返信があった。
信じられなかった。交通事故なら必ずしも事件ではないのに、私にはまるで彼が口封じされたと思えてならなかった。
明日、彼の職場に、そう、大阪の本社に行こう、と決めていたから。
大木さんしか知らないことがあって殺された、と考えたくはないが、あまりにもタイミングが合いすぎた。
大木さんは言いたいことも言えず亡くなったと思えたが、実は、事故は彼の居眠り運転が原因で、いわゆる自爆事故だった。
参列した葬儀では、そう聞かされた。ということは、私の考えは思い違いで、単なる事故だったようだ。
メールした同僚の舞が涙目で言った。
「いい人だったのに、気の毒だったね。だけど、居眠り運転なんてする人とは思えないから、おかしい気もするな」
その言葉に、はっとした。
そうだ! 誰かが彼に睡眠薬でも飲ませたかもしれない、と思えやしないか?
彼は、仕事帰りに事故で亡くなったことは確かだが、早い時間からお酒は飲んでいないだろうし、真面目な人なので居眠りするとは考えにくい。はたから見たら、不思議がるのも無理はない。
だけど、事故で亡くなったことは事実で、葬儀は悲しみに包まれながら終わった。葬儀後も私以外の女性陣は、ずっとすすり泣いていた。頭が良く、背が高くてイケメンな大木さんは、職場でファンが多かったようだ。