六時半頃メンドーサ夫妻の部屋へ行くとカルロスが三人を迎えてくれた。
「いらっしゃい。金原さんお久しぶりですね。お帰りなさい」
「お久しぶりです。またよろしくお願いします」
「幾世さん、さびしくなっちゃうよ」
「色々と本当にお世話になりました」
「さあ、晝間さんもどうぞ中に入って」
三人にとってそこは勝手知ったる他人の家なので、ゆっくりくつろげる。メンドーサ夫妻には子供がいないので、二人は自分たちの子供のようにGHの歴代独身寮の若いスタッフたちに接してくれていた。キヨミが冷えたビールを持ってやって来た。
「さぁ、今日は栄ちゃんの最後の晩餐や。たくさん食べてってや」
と言ってキヨミはビールを配り、みんなで乾杯した。
「お父さんのことウチらには何にもできへんけど、毎週日曜教会で一日でも長く生きられるよう二人で祈ってるからね」
「ありがとうございます。キヨミさんにも大変お世話になりました」と幾世は返した。
メンドーサ家のメイドが次々と料理をテーブルに持ってきた。正嗣もすでに何度か食べたが、ここのチキンアドボは癖になるうまさだ。アドボは肉や野菜の酢煮で、フィリピン人のソウルフードともいうべき家庭料理。メイン具材に鶏肉を使用するのがポピュラーだが、各家庭でそれぞれ独自の味付けがあるそうだ。
「明日のフライトは何時なの」とカルロスが幾世に聞いた。
「午後のJAL便です」
「明日は多分空港は大変な人出なんじゃないかな」
「何かあるんですか」
「ニノイが帰国するらしいんだよ」
正嗣も口を挟む。
「ニノイ・アキノですか。大丈夫なんですか、帰ってきても」
「いや、それは分からない。死刑の判決を受けている人だからね。そのまま身柄を拘束されてしまうんじゃないかな」
「それなら何で帰ってくるんですか」
「来年選挙があるからだよ。簡単じゃないだろうけど、マルコス政権に対抗できる野党の組織固めのためだよ。今の政府は汚職まみれだからね。誰かが変えなければならないんだ。国民誰もがそれを望んでいる」
「ニノイってどんな人なんですか」
先日平瀬と会った日から気になっていたニノイについてカルロスに聞いてみた。