自分の意志に反してここまで連れてこられた屈辱感と、その意図とは何なのかが知りたくて、祠に向かい強い口調で問いかけてみたのだ。その瞬間、不意に冷たく強い風が、ガタガタと祠の扉を揺らして吹き抜けていった。
それに驚いた明日美は反射的に低い態勢でストックを握り返し身構え、レオはしっぽを膨らませ唸り声をあげている。身構えた状態で神経をとがらせ、周りの変化を探ってみるも、その後何の異変も起きることはなかった。
父が度々手入れをしていたにもかかわらず、祠は古くずいぶんと傷みが激しく、扉の鍵が壊れて中が見えている。
「もうまったくうー、なに驚かせてくれてんのよー、ばっかじゃないのー」
あたかも動揺をごまかすかのように、ため息交じりに空を見上げていうと天気はよく、ゆっくりと雲が流れているのが見えた。絶対に何かが起きるはずなのだが、現時点ではその気配は感じられない。とはいえ自分では何かができるわけでもなく、できるのはただひたすらに待つこと以外に何もない。一時が過ぎ、心に余裕が出てきたのだろうか、渡る風にも静寂を感じ、周囲を客観視できるようにもなり、この場所についての疑念を持っていたことを思い出したのだ。
その疑問を抱いたのは中学生になった頃で、読書が趣味の1つとなり、父の書斎で本に囲まれて読書三昧の時間に快楽を感じるようになっていた。父は突如として筋トレにのめり込んだり、意味不明な物を集める変わり者のせいなのだろうか、書斎には社会科の教員とはいえど、異常なほど大量の書籍が置いてあったのだ。何故か明日美はその中でも、考古学的分野で古代史に纏わる遺跡や埋蔵文化財といった本に興味を持つようになっていた。
そしてまた、記載された遺跡の中に、今いるこの場所と類似した形態のものがあることに気づき、何らかの遺跡ではないのだろうかという疑念を持つようにもなっていた。ところがここに来る機会もなくなった最近では、そんなことさえも忘れてしまっていたのだった。だが今は事情が違う、自分の置かれている状況と、遺跡(?)との間に何かしらの関係があるような、そんな予感めいた念に駆られている。こうなると我慢できなくなるのが明日美の性分である。