ディナーショー、コンサートの部
わたくしだけ一人、ディナーショーのその歌手の歌声が聴きたくなりまして、お料理のサービスがすべて終わった後に会場片隅の入口ドア付近で、わたくしに取りましても大変懐かしくもありました、その魅惑的な歌声を聴いておりますと、宴会マネージャーに呼び止められたので御座います。
それは、「もう直ぐ会場はお開きになりますよ。裏のキッチンの方で終了後の片付けのための準備を行いましょう」という事で御座いました。そうして、お客様が各々の心の内に独特の心理的な残響と感動とをお携えなさって、宴会場でありますところのコンサート・ホールから全てお帰りになられますと、ウェイター達全員でコンサート会場の片付けに入るので御座います。
そうしますと今度は、今までの華麗で豪華でありました会場の様子から一変いたしまして、ウェイター達とそのコンサートの音楽のスタッフたちが入り乱れまして、通常そこのウェイター達だけの、テーブル上の、グラスやナプキン、シルバー類の片付けだけではなくなりまして……、それはまるでワーテルローでの戦いのフランスのナポレオン軍と、イギリス軍、オランダ軍、プロイセン軍、そしてロシア軍、の連合軍との戦いの時のような、騎士たちの入り乱れた乱戦のような光景が幻出されまして、そのコンサートがありました会場は、巨大に構築された蟻塚を他の種の蟻たちが崩していくが如く取り崩されていくので御座いました。
その混乱の波に呑み込まれながらも、我々ウェイター達はしっかりと仕事を行いまして、前夜祭は夜も更けたので御座います。
そして、また次の日は続いて降誕祭クリスマスの日で御座いましたので、次のディナーショーの、つまり明日の準備のための過密な行動計画が、更に、わたくしたちウェイターには用意されておりまして、その戦場のように展開された後片付けの後には、また新しいテーブルセッティングを行なわなくてはなりませんでしたので、とても慌しく忙しかった事を覚えております。
その年の二日間のクリスマス、降誕祭前夜祭、降誕祭、そして、全世界の毎年のクリスマスの≪ 聖なる夜≫二日間も全く同じで御座いましょうが、この時のホテルでの、そのような混乱をたとえてみますと、コロナ騒動のような混乱(カオス・chaos)を、それは次なる世界的戦争、第三次世界大戦であるとすれば、その時その宴会場は、正にその世界戦争のような様相を呈しておりました。そのようにまで感じました事を記憶しております。
それと正に同じような混乱は、全世界のキリスト教徒の在りまする国々のホテルに於きましては、クリスマス時期には毎年同じで御座いましょう。