「卵かけ御飯」
僕は卵かけ御飯を食べる度に脳裏によぎる、ある苦い思い出がある、ちょっとえぐい事もお話することにもなるのだが。
それは……、
先日、友人たちとゴルフに出掛けた。その日は、雨は降りそうにもなかったが、何だか風が乱れ吹いていて、そして、空の雲も斑で黒い部分もあり、秋でもないのに空は高く斑な隙間より薄日も射す、波乱の予感がする、そんな天気の日であった。
こんな日に出掛けます? と言った奴がいたが、他の皆は全員行くと決めて出掛けた。そうしたらやっぱり、とんでもない波乱が起きたのである。
それは驚いた事に、僕の打ったゴルフの球が仲間の内の中小企業の社長の顔面に当たってしまって、大変な事となってしまったのである。
最初、打球が当たって倒れたその社長はしばらく起き上がれず、倒れたままほとんど動けないでいた。そして、僕が近づいて行って様子を見たら、何と球はその社長の左の眼球に当たっていて、黄色の液体がおでこから頬に掛けて流れ飛び散っていた。そして、瞼も一部引き千切られていた。
僕はそれを見て本人よりも慌てたが、救急車を呼んだとて、もう完全に片目は失明だろうから、考えてみたら、もうどうしようもない。しかしながら、こういう時には慌てるのが一番まずいと思い、ゆっくりと携帯で救急車を呼んでいたところ、「早く! 早く!」という奴がいて急かしてきた。
「もうダメだよ、完全に片目は失明だから、慌てることはないよ」と言ってやったところ、
「そうじゃないよ、大変痛がっているからさ~ァ」
あっそうか? 痛いのか? 片目が完全失明になってしまっても諦めずに急いでいるふりをしなければまずいのか?
その社長は傷も癒え、しばらくすると、視力片目になってもそこにガラス玉を入れてまたゴルフを続けるようになった。そして、僕とは二度とゴルフには一緒に行きたくはないと周囲に漏らしている事を伝え聞いた。僕は内心思った。
「あの社長、お年寄りでお金持ちだから色々な事で気を遣って、そして、また譲ったりしてやると、そのサービスで色々と奢ってくれたりも、御馳走してくれたりもしたが、もうダメか?」
その社長が救急車で運ばれた後、社長が皆と一緒にゴルフ場まで乗って来た、銀色のベンツは、僕が運転して社長の家まで届けたのだけれど、社長の家の玄関先で奥さんに車の鍵を渡すために会った時は針のムシロの上の感覚だった。
針のムシロの上のような感覚とは? 僕には、ある意味「夢のような真実味が無い空中に浮かんだような」感覚だったが、その奥さんに会った時は、稲妻のように神経を突き刺す! そのようにも感じたものだった。
そして、僕は朝食で特に〈卵かけ御飯〉を食べる時には毎回、その社長の、あの時の顔に得体の知れない黄色の汁がしたたっている様子が浮かんできて申し訳なく思う事しきりだった。
僕は、人間にとって視力を部分的にでも失う事は大変な事であろうと察すると、それで玉子かけご飯を食べる時には、毎回また、あの時の、針のムシロの上のような感覚に陥り、申し訳ないと思う事しきりなのである。