三の巻 龍神伝説の始まり
羅技は心の中で、「何故父上は我を一緒に戦わせてくれなかったのだ? 死んでも悔いはない。里を守ろうと小さな子供までも戦うとなかなか逃げなかったのに。我は里を守れなかった……」と憂いた。
剣を首に刺し抜いて自害しようとすると、男は素早く腰の剣を抜いて羅技の剣を叩き払った。見ると、羅技の剣は真っ二つに割れて落ちている。
「あっ」
「何故死のうとする? 父親に助けられた命を……。困った姫じゃ」
羅技は男をぎっと睨みつけた。が、暫くしてすっと吹っ切れた顔をすると、大声で笑い出した。
「あはは! この我を妃にだと?」
すると、羅技は着ていた衣を全部脱ぎ捨てた。身体には無数の矢傷や刀傷、獣から受けた傷が残っていた。
「この身体中に傷が在る女の何所が良いと言う? この姿の我でも欲しいと申すか?」
恥ずかしげも無く男に全裸の身体を見せ、
「これは里人を守る為に獣やそと人とやり合って受けた戦利品よ!」
と誇らしげに笑ったが、すぐに顔色を曇らせた。
「これはただの傷じゃ……。我は次期当主であるのに里を守れず父上から里を追われ、戦うことが出来なかった愚か者だ。龍神守の次期当主である我は、今や父上や里の武人の仇も打つ器量もない。日々のうのうと生きている」
そう言うと力なくうつむいた。
「そなたの身体にある傷は里の民を守る為に受けたのか! 余はますますそなたが気に入ったぞ。立派な戦利品ではないか。どうやら余も本来の姿をそなたに見せねばなるまい」
男の身体から赤く眩い光が出ると、辺りがその眩い光で包まれた。光が消えると、白銀色の鬣と背びれが燃える赤い龍に姿を変えた。