憎たらしい姑そっくり
しゃべり方は控えめだが、言いたいことはずばりずばりと言う。ところどころ、「わたしは学がありませんから」、「わたしは馬鹿ですし」と言うが、なかなかどうして、頭の回転は速いように思えた。カウンセリングで話す内容は簡潔でわかりやすい。
はじめは姑に遠慮していたのだろうが、いつ頃からか姑にも遠慮がなくなっていったようだ。話しぶりからすると、舅が亡くなった頃からだろうか。状況を見極めて立ち回ることができるようだ。
「娘が小学校に入って学校から帰ってきたとき、学校で嫌なことがあったと話し始めたその口ぶりを聞いて、気を失うかと思いました、いや、ほんとうに。姑が小さくなって学校に行ったような錯覚がしたんです。そのときは思わず、肩をつかんで余計なことを言うんじゃない! と怒鳴った気がします。娘もびっくりしたでしょうが、わたしも動揺してしまって、何を言ったかは実のところよく覚えていないんです」
「なんであんなに卒倒しそうなくらい動揺したのか……、恐怖ですかね、やっぱり。これから毎日娘が学校の愚痴を、あの姑に似た顔で、姑の口調、姑の目つきで話すのかという恐怖を感じたんでしょうかね」
この人の娘は引きこもる傾向があり、対人疎通性が悪く、学校では時々かっとなって物を壊すことがあった。そこで、高校のカウンセラーから発達障害ではないかと言われクリニック受診をかなり強制的に勧められて受診した。クリニックに行ってみたところ、医師が、どうも発達障害ではないのではないかと判断し、検査結果を添えてこちらのカウンセリングルームに紹介状を書いてくれたのだった。
母の主張は、「学校で問題を起こさないようにしてほしい」ということだった。女性カウンセラーが娘と話したが、何も答えてくれないとさじを投げたので私が面接した。ここに来たことをねぎらい、〈友だちができるようになりたいか〉と尋ねた。そうするとこっくりとうなずくではないか。
〈では少しの間ここにいらしてください。先ほどの女性カウンセラーの方があなたに年齢が近いので、女性の友人関係のことは私よりわかると思います。彼女と友だちとの付き合い方や学校での過ごし方について話していってもらいたいのですが、いいですか〉。
再びこっくり。
こうして私は、母親面接の担当となり、右のような話をずっと聞いていったのである。