せっかく、最高の人に出会ったのに、その人の大切な家族を死に追いやる原因を作ったのだ。映画監督として最高だった彼を不幸にした。なかなか出会えないかもしれないその人が、幸せかよりも、仕事を一緒にしてくれないか、ということばかりに考えがいっていた。だから、罰が当たったのだ。
言おうか迷っていたが、やはり言おう。俺は、監督までもがダメになることを、想像していなかった。ただ、やたらと苛立っていたのだ。
聞かれたから話すが、奥さんが亡くなったことは、俺とは関係がない。たとえ、願っていたとしても、俺は誓って何もしていない。ただ、話をしただけだ。
「うまくいかなくなったのよ」
「なぜ、うまくいかなくなったの」
「さあ、わからないわ」
「あなたがうまくやれないのは、いいかげんだからではなく、何かをもっとうまく解決したいと思っているからだ。それをやめなさい。楽になりなさい」
「楽に? そうだ、薬を飲めばいいんだわ。たくさん飲めば楽になるかもしれないわね」
そんな会話をしただけだ。見舞いがてら、言葉を交わした奥さんは、俺が誰かさえわかっていなかった。はかない命だった。
悲しさがやっと湧いてきた。泣いたことが、正直、いつからなかったか覚えていない。最後に泣いたのはいつだったか……。悲しかった。涙があふれたことが、意外だった。
俺は、大きな何かを失った。追う立場から、追われる立場になりたい、という希望も今はなくなった。ただ、監督のために泣いた。
いや、自分のためかもしれない。泣くなんて最後にしたい。悲しさに打ち勝つ人間になりたい。苦しさや悲しさに負けたくない。
話はまだ終わらない。きっと、また俺は復活する。ただ、今は泣きたいだけ泣こう。
話を聞いてくれてありがとう。また、いつか俺の話をするから、そのとき、また会おう。