「それこそ人様と育て方が違うな、というのは早い段階で気づいていましたね、赤ん坊の頃からでしたか……」

「どう違うって……娘に対してというより姑に対しているような気分で育てていたんですね……」

「あの子も可哀想だと思います。顔が似てるってだけで嫌われるなんて。でも顔だけじゃあないんですよ、似ているのは。性格も陰気で、口を開くと愚痴や文句。一緒にいて気が滅入るタイプなんです」

姑に対するような気分で育てるというのはどのような育て方だろうか。

「余計な口を利かせないってことですかね、こちらも話すことは必要最低限にとどめて。娘が何か口を開くと、じろっとにらんでやるんですよ。それで早いうちからまだましに育ちましたかね。姑のように際限なく愚痴や人の悪口を話すようになったらおしまいですからね。それこそひっぱたくなり殴るなり、今はやりの虐待親になっていたかもしれませんねぇ。あの子は運が良かったと思いますよ、わたしが睨むだけの親で」

いやいや、睨むだけではなかったろうが、この母親の子どもへのかかわりの特徴は、暴力よりも目つきや表情、口数の少なさやきつい口調にあったようだ。子どもは始終脅されているような、監視されているような、そんな気分で育ったのではないだろうか。結婚はお見合いで、将来の夫は自営の工務店をやっていて、稼ぎがしっかりしているならいいやと即決だったそうである。

「わたしもこのご面相ですから最初から高望みなどしていません。実直で優しそうだからと思ってすぐに決めてしまいました。工務店といったって夫一人の会社ですから、ほとんどうちにいませんが、よく働いてくれるので、文句を言ったら罰が当たります。でもね、陰気で人の話もろくすっぽ聞いてもないのに、自分が口を開くと重箱の隅を突っつくような小言ばかり延々と言う姑と、一日中、毎日毎日暮らしていたら、わたしもどこかおかしくなっていっても不思議はありませんでしょう」