俳句・短歌 短歌 2022.02.13 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第49回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 大川にただちに注ぐ峡の水 ひとたび大き渦をなすなり おのづから流れはづれし濁り泡 日の射す方に吹き寄せられぬ 沼原の葦の葉ずゑの空低し 曇りうすづき雨上りたり
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『維新京都 医学事始』 【第22回】 山崎 悠人 その産科医は、母子の死を覚悟した。死産児を取り出すことも諦めて…。―緊急の往診で到着すると、消耗しきった妊婦が… それらの遊びでは、負けた方が酒を飲むという決まりがあったが、最年長でヨンケルと同じ四十四歳の山本覚馬は加わらず、一人静かに酒を楽しんでいた。宴はしだいに、大盛り上がりとなっていった。万条と安妙寺は座敷の隅で、そんな大人たちの遊びを遠慮気味に見守った。何もかも初体験で、さすがにその輪には入れなかったのだ。一方、ヨンケルは芸妓や舞妓の白塗りの顔と、その華やかな衣装に興味津々の様子だった。酔いも手伝い…