俳句・短歌 短歌 2022.02.13 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第49回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 大川にただちに注ぐ峡の水 ひとたび大き渦をなすなり おのづから流れはづれし濁り泡 日の射す方に吹き寄せられぬ 沼原の葦の葉ずゑの空低し 曇りうすづき雨上りたり
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『春を呼ぶ少女』 【第7回】 桜小路 いをり 白銀に輝くオオカミ…その背後から十歳くらいの子どもが現れた。白い肌に白い髪、そして特徴的にとがった耳。エルフだ。 リリーは、その首をねぎらうようにとんとんと叩き、手綱を握り直します。森の入り口に着くと、フルールはひと声、大きく鳴きました。しんと静まり返った森に、フルールの鳴き声がやわらかく広がっていきます。「ありがとう。始めましょうか」その言葉を合図に、ふたりは走り始めます。リリーは、頬に当たる風の冷たさに思わず目を細めました。後ろへ後ろへと流れていく景色は、冬から春に変わっていきます。硬く縮こまっていた草…